ダレル『虫とけものと家族たち』(集英社文庫)

石神井公園からの散歩の帰りに上石神井ドトールで読む。『アレクサンドリア四重奏』(未読)の作者の著書と思って買ったのだが、実はその弟のジェラルド・ダレルの作だった。表紙には「ダレル」としか作者名が記されておらず、拾い読みした巻末解説には『アレクサンドリア四重奏』の書名が見えたので勘違いしたのだ。
とはいえこの本はなかなか面白い。後の大作家ロレンス(ラリー)と語り手である著者(ジェリー)を含むダレル一家が、1930年代にイギリスを離れ、ギリシアのコルフ島へ移住。大戦前夜のギリシアではドイツの影響力を退けるため、イギリスに接近していたことも背景にあるのだろうか。ともあれ変わり者揃いの一家と小さな島の奇妙な人々が、豊かな自然のなかで愉快な暮らしを営む姿が、著者の思い出に理想化されて生き生きと描かれる。
移住時に10歳だった著者の目を通した家族や島の人々のユーモラスな人物描写が楽しいし、長じて動物学者となる少年が初めて出会う虫やけものたちとの関わり、島の風土や自然も魅力的だ。事実この本がベストセラーとなり、イギリスから大挙観光客が押し寄せて、無名だった島を観光地に変えてしまったのだとか。訳者の池澤夏樹もこの翻訳作業がきっかけでギリシアに魅了され、2年半をそこで過ごすことに。かの地で生まれた池澤春菜の運命も本書が決定したようなものか。
映画『マイライフ・アズ・ア・ドッグ』や『ローカル・ヒーロー 夢に生きた男』が好きな人には(私のことか)とピンポイントにお勧め。そうでない人が読んでも面白いと思いますが。