突然炎のごとく

石神井公園に早朝散歩。アジサイの咲く千川上水緑道を自転車で走る。いつものパン屋でカスタードチーズパイを買い公園で食う。丸いパイ生地の中央にカスタードクリームが盛られ、その上に焼き目の付いたカマンベールチーズのかたまりが載せられている。生地のサクサク感、クリームの甘さ、柔らかいチーズのかすかな苦味と酸味が一体となってああもう美味いのよ。食ってから公園内をゆっくり移動。ハナショウブは咲き誇っているのに仲間のカキツバタはだいぶ萎れている。ドウダンツツジ、ウツギ、白粉の匂いを放つセンダン。カモの一家には会えず。ヒナたちはまだ2回しか目撃できていない。
帰りに上石神井ドトールに寄る。隣にあった喫茶店は、ドトールの出店とクロスフェイドするように潰れ、解体が進む店の入り口はブルーシートで覆われている。考えてみるとえぐい話なのかもしれないが、たまに立ち寄ると暗い店内には他に客もいず、無表情なマスターに覇気なく応対された。カフェと違って洋食も食えたが不味かった。そんなわけで取り立てて同情もないのだが、ドトールの出店を機に店を畳んだと考えるほうが自然ななりゆきか。白色灯のスポット照明とガラス戸越しの朝の光が入り交じる禁煙席で、長嶋有『夕子ちゃんの近道』(新潮社)を読む。外出したときにしか読まない(読めない)のでなかなか読み進まない。連作を7編収録しているが、だいたい1ドトール・1スタバにつき1編のペース。毎日安カフェに入るわけでもないので長く楽しめてお得だ。そもそも毎日外に出るわけでもない、というのが情けない。


新しいガステーブルを買った。まずネットショップでの実勢価格を確認。2口のコンロとグリルの付いたもので一番安いのは1万円前後らしく、それを目安に吉祥寺へ。キムラヤ・ロヂャースラオックス・ロフト・ユザワヤ西友など見て回り、最も安かった西友で8970円のを購入。ちなみにこの機種。結局ネットでも最安値のを買ったことになる。

さて、どうやって持ち帰るかを考えたが、自転車を置いてバスに乗るのも降車後の歩きがわずらわしく、自転車前部の荷台に載せていくことにする。ところが大荷物の重量バランスが不安定なうえ幅を取り、人の多い街なかでふらふらと漕ぐこともできず、家までの道のりのほとんどを自転車を押して歩く羽目に。これが想像以上の苦行で、道を4分の1ほど残したところでようやく自転車に跨がり、汗まみれの体でゆらゆらと帰宅。街歩きの疲労と重なってあえなくその日はダウン、設置は持ち越し。この苦労を千円の差額でパスできるぶん、やはりネット通販は便利なのかも。「かも」じゃないよって話ですね。
そして翌日設置。まず古いガステーブルをそこそこ掃除し、撤去しようと持ち上げた途端にガスバーナーのユニットが支えを失って脱落、底板は赤錆びて穴が空いており、杭を打たれた吸血鬼か『銀河鉄道999』の時間城よろしく筐体のあちこちが砂のように崩れ出す。よく今まで事故が起きなかったものだ。撤去後のガス台の油と錆片とその他諸々に覆われた様は阿鼻叫喚だったが、マジックリン様と朝日新聞様のおかげでステンレスの光沢が復活。ありがとう朝日。もう取らないけど。
真新しいガステーブルを台に載せホースを接続。掃除しやすいホーロー天板も美しいその雄姿は、8970円の庶民階級出身とは思えぬ気高さ。黒く輝く堅固な五徳に重いヤカンを載せてツマミをひねると、美しい青い炎が吹き上がり底知れぬ火力を見せつけるように、ヤカンに満ちた水をあっという間に熱湯へと変えた。パロマの科学力は世界一!
新ガステーブルで調理した最初の夕食は、鶏のグリル焼き、厚揚げとインゲンの煮物、味付海苔、大根と油揚げの味噌汁、ご飯。鶏肉に塩・黒胡椒をまぶし魚焼きグリルで焼くだけだが美味い。魚焼きグリルはいいねえ。リリンの生み出した文化の極みだよ。ああ、惨事の予感に脅えることなく料理できるって素晴らしい。
さて後は旧ガステーブルの残骸の処理が残っているが、縦笛やトイレットペーパーの芯に至るまで分別が定められている武蔵野市様のお達しによると、40リットルの指定袋に入り切るものは粗大ゴミ扱いではなく回収されるらしい。袋に入るものはゴミ。今は新しいガステーブルの空になった段ボール箱に収められている。そういえばガステーブルの箱にとんでもないものを詰めて捨てようとした外国人がいたな。どうでもいいけどエントリの表題の「ごとく」は「五徳」と掛けているのであった。本当にどうでもいい。