音のマチエール

下北沢Zoffから眼鏡が用意できたとの連絡があり、閉店間際の店に取りに行く。9日間にわたり割れた眼鏡を掛け続けて、右視界の亀裂を避けて焦点を結ぶように眼が慣らされてしまったものだから、まともな眼鏡をかけると若干違和感がある。まあおいおい慣れるだろう。それにしても結構時間をかけて選んだはずが、よくよく見ると何の変哲もない黒縁眼鏡だったのにびっくりした。
そのまま池の上まで歩きライヴ・バー「Bobtail」へ、神谷きよみさんのライヴを観に出かける。サポートでの演奏やカラオケ(笑)での歌唱は聴いていたものの、ソロライヴに触れるのは初めてだ。
最初に対バンの女性シンガーソングライター・Senさんが登場。サポートの男性ギタリストを加えた生ギター2本の編成だが、フォーク的なストローク中心のプレイではなく、ジャズやボサノバの影響を受けたテクニカルな演奏を聴かせる。さらにトロンボーンが加わりジャズの要素が濃くなるが、歌や楽曲の佇まいは懐かしいニューミュージックのそれに近い。
そして、いよいよ神谷さんがステージに立つ。神谷さんのピアノとチェロ、斉藤孝太郎さんのチェロ、額賀晋治さんのギターの3人編成。感情を映して緩やかに伸縮する神谷さんのピアノと歌。斉藤さんの深いディレイの掛かったチェロの弦の軋みが空間に重ねられて下地を作り、その上に生ギターが流麗な旋律を奏で、緩やかに時を刻む。リズムの組み合わせから生まれるグルーヴよりも、音のレイヤーを重ねて作られるテクスチャーの面白さ。立体よりも平面、彫刻よりも絵画、そういう印象をこのアンサンブルからは受けた。チェロ2本が束ねられると、音のマチエールは複雑さと重厚さを増す。だが、そのマチエールの奥には神谷さんの豊かで滑らかな美声と、さざ波のようなピアノの繊細な響きがしっかりとある。今回は編成の妙による魅力も大きかったが、様々なシチュエーションでの神谷さんの歌に触れてみたいと思った。
ライヴの後、知り合い多数の会場で談笑。同席していた不倫カップルらしき二人連れの話とか。そのカップルの食べ残したオードブルを食べる私は人倫に悖るか。あとお笑いとかアイドルとかグラビア雑誌とか。何か「リアルおたく」の認定を受ける。うわーかっこいいー。電車が無くなる前に店を退け吉祥寺へ。帰り道ですき家カレー食らう。ライヴバーでカレー食えばよかった。