Fritz Richmond Tribute in Tokyo

Fritz Richmond Tribute in Tokyo -A JUG BAND EXTRAVAGANZA!-
2006年4月2日 渋谷duo MUSIC EXCHANGE
出演:GEOFF MULDAUR/JOHN B SEBASTIAN/JIM KWESKIN,AND FRITZ'S FRIENDS
ジャグとは広口の瓶のことで、上手に息を吹き込むとチューバのような音が出る。このような瓶(ジャグ)や、洗濯板を使った打楽器、洗濯桶とモップの柄を使ったベースなど、日用品を楽器に用いて音楽を奏でるのがジャグバンドだ。黒人音楽=ジャズ/ブルースと白人音楽=カントリー/フォークを貫く音楽性は、米国ルーツ音楽の大きな水脈であるかもしれない。
そのジャグバンド界の中心人物で、昨年亡くなったフリッツ・リッチモンドを偲ぶコンサートが日本で開かれた。招聘されたのはフリッツと縁がありジャグバンド音楽を背景に持つジェフ・マルダー、ジョン・セバスチャン、フリッツとジャグバンドを組んでいたジム・クウェスキンという実に魅力的な顔合わせであり、そのうえ日本側からは大物サプライズ・ゲストが用意されているという。これは足を運ばないわけには行かない。果たしてスタンディングの会場は、熱心なファンが詰めかけて大変な混雑ぶりだった。
最初に登場したのは日本のジャグバンド「マッドワーズ」。メンバーの日本人離れした容姿に驚きつつも、演奏されたのは憂歌団などにも通じる泥臭さを感じさせる本格的にブルージーな音楽。手品さえ披露するサービス精神は大いに会場を暖めた。日倉士歳朗のスライドギターはもっと聴きたかった。
次に現れたのが、北陸を拠点とするOld South Jug Browers。12人の大所帯が純白の調理服(?)に身を包んで現れたその佇まいは、どうみてもカルト集団のそれであったが、戦前のSP盤から発掘したというレパートリーを楽しくスウィングさせるマニアックかつ熱い演奏を聴かせ、本場アメリカ以上に盛んだという日本ジャグシーンの広がりを覗かせた。
そして、いよいよジョン・セバスチャンが登場。何と来日は77年以来というから、彼を目当てに訪れた人は多かったに違いない。その昔映画『ウッドストック』で観た丸眼鏡もそのままに年を重ねたジョンは、ハートフルな声と巧みなギターワーク、気さくなMCで会場を包む。実にさりげなく歌い出された"Do You Believe in Magic?"に一際大きな歓声が上がる。やがてジョンは、かつての来日時に魅了されたある日本の音楽について語り始め、ステージにその音楽『泰安洋行』の作者・細野晴臣を招き入れた。このことは事前に知って会場を訪れた客も少なくなかったのだが(私もその一人)本当にサプライズだった客も多く、会場は大きな歓声に包まれた。ジョンと細野が抱擁する場面は、かつてYMOの米公演を訪れたジョンが大いに困惑したというエピソードに比べればどれだけ幸福だったことか。ジム・クウェスキン、ジェフ・マルダー、そして細野のベースを加えて演奏された"Day Dream" はこの日のハイライトの一つだ。ジョンによる「あの口笛」を生で聴きながら、同じフレーズが会場のあちこちから流れてきたのも微笑ましかった。
続いてジェフ・マルダーが登場。これまで何度か来日しているものの、生の姿を目撃するのは初めて。「アメリカン・ルーツ・ミュージック」の豪快なイメージを裏切るその声の艶・繊細さ、丁寧なギターの爪弾きに魅了される。細野はベースに加えてマリンバの演奏も披露。ジェフの繊細な歌に、マリンバの優しい音色が実に相応しい色彩感を与える。ジム、ジョン、ジェフ、そして細野のマリンバで演奏されるのは、ボビー・チャールズとリック・ダンコの名曲"Small Town Talk"だ。この演奏は本当に素晴らしく、これだけでも足を運んだ甲斐があった。こうした繊細さに加え、トムズ・キャビン麻田浩氏を呼びつけてヘリウムガスを補給しつつアヒル声で歌うようなエンタテイメント精神も抜群で、懐の深さを知らされた。
そしてジム・クウェスキン単独のステージ。参加作品は耳にしたことがあるものの、その音楽に触れるのは初めてだ。乾ききって明るく力のある歌声と、ぐいぐいドライヴするギターの心地よさは、ジョンの柔和さやジェフの繊細さとはまた違う味わいで、ジャグバンド本来の魅力に最も近いものだろう。麻田浩御大ら日本人プレイヤーも加わった演奏は、フリッツ・リッチモンドの夢見たジャグバンド音楽の交歓を体現したものだったに違いない。
最後は日米の出演者全員がステージに上がり、アンコールでは細野が楽しそうに洗濯板を擦る姿も見られ、楽しく賑やかに「ジャグバンド狂想曲」の幕を閉じた。ジャグバンドというあまり触れる機会のない音楽の豊かさを知り、アメリカルーツ音楽の魅力を改めて教えられる、とても充実したコンサートだった。
で、細野ファンとしては「やっぱり根っからバッキングの人なんだなあ」と再認識。フロントではなく歌手の後ろに寄り添い背中を押すときの細野には絶大な安定感・信頼感がある。決して前に出ず、なお存在感を示すベースの魅力は言うまでもなく。ダブルストップ一発であれだけ会場を沸かせるベーシストがほかにいるだろうか(笑)。きっと「歌わなくていいなら何でもするよ」とかいう感じだったんだろうなあ。
終了後、細野ファンの人々とロイホ飯。九段での「東京シャイネス」時の微妙な空気とは違い、大いに細野の健闘を讚える(笑)。今井紀明あるいは上祐史浩に似た風貌と不器用な物腰でテーブルに緊張感を伝えるウェイターが、一同に強い印象を残す。楽しかったです。

追記 John Sebastian revealed inspirations behind his hits.: "Tadd"pole galaxy
こういう聴き取りができるかどうかの差は大きいなあ。必読。