五味洋子『アニメーションの宝箱』(ふゅーじょんぷろだくと)

老舗のアニメーション上映批評サークル・アニドウ*1の中心メンバーだった著者が、40年以上に及ぶアニメファン歴からフェイバリットを厳選したガイドブック。
私はこの人の、商業セルアニメとプライベートアニメ、国内作品と海外作品、芸術とエンタテインメントなどの分け隔て無しにアニメを愛する、ファンとしての姿勢にとても共感する。製作年代順に作品が並べられた本書でも、『恐竜ガーティ』や『くもとちゅうりっぷ』などの黎明期の作品に始まり、ノルシュテインと『モンスターズ・インク』が、川本喜八郎『鬼』と幾原邦彦『劇場版セーラームーンR』が同じ地平で語られるのは痛快だ。『アイアン・ジャイアント』のブラッド・バードや日本の細田守新海誠ら新世代への目配りも怠らない。劇場版『クレヨンしんちゃん』では原恵一『オトナ帝国』でなく本郷みつる『ヘンダーランドの大冒険』を、ガイナックス作品では『王立宇宙軍』でも『エヴァ』でもなく『ナディア』を選んでいるのは、根っからのアニメファンとして、作り手が捧げた先行作品へのオマージュに共感する故なのだろう。作者は最初期からの宮崎駿ファンでもあるのだが、劇場版『銀河鉄道999』のキャスティングの成功に触れて「声から受ける印象は予想外に大きいもので、最近の俳優のネームバリューに頼る傾向は考え物だ」と述べているのは遠回しの苦言だったりもするのだろうか。
いくつかの解説では、初見時の感動が蘇り胸が熱くなりもしたが、これはビデオ時代以前、映画の語り部としての映画批評の再来ではないか。優れたアニメの語り部による(趣味の偏向込みで)信頼できるガイドブックとしてお勧めする。五味さんにはぜひブログを作って、現在放映中のテレビアニメの感想を聞かせてほしい。

*1:そういえば『双恋』監督の富沢信雄と、脚本の金春智子は、かつてアニドウの関係者だったはず。その両者が30年後にこんなアニメを作るとはゆめ思わなかったに相違ない(当たり前だ)。