真夏の夜のフュージョン/R&B

三鷹パレードにてレコード4枚1050円。
LALO SCHIFRIN/TOWERING TOCCATA('77)
燃えよドラゴン』で有名なラロ・シフリンの、CTIレコードにおける2枚目のアルバム。『キングコング』(ギラ〜ミン!)『ジェットローラーコースター』『鷲は舞い降りた』など映画音楽を含む自作を主に収録している。スティーヴ・ガッドds、アンソニー・ジャクソン/ウィル・リーbの強力な横揺れリズムに、エリック・ゲイル/ジョン・トロペイgがワウの効いたカッティングとブルージーなソロを加え、ジョー・ファレルとジェレミー・スタイグの息遣いも生々しいフルートが絡む。そこにシフリンの聴かせ所を心得た管弦と、意外に印象に残るエレピやクラビの音が載ると、気分はもう大ファンキー70年代男泣き映画劇場! プレイヤーを突出させないアンサンブル重視のCTI美学と、シフリンの映画音楽的な引きの構成力が相俟って、非常に抑制が効いていながら客を熱くさせるクールな仕事師ぶりがもう格好良すぎ。

GATO BARBIERI/CALIENTE!('76)
ハーブ・アルパートのプロデュースによるA&Mレコードでの第1作。ラテン色豊かな作風で知られるバルビエリだが、本作では若干抑え目に、A&M的というのかAORフュージョン寄りに洗練された仕上がり。とはいえ、滑らかに流れるグルーヴと哀愁は確かにラテンルーツのそれで、レニー・ホワイトds、ゲイリー・キングb、エリック・ゲイル/デヴィッド・スピノザ/ジョー・ベックg、エディ・マルチネス/ドン・グロルニックkbほかの凄腕が、バルビエリの泣きのサックスを主役として、職人的にバックアップしている。
ところで、このアルバムにはかのサンタナ「哀愁のヨーロッパ」と、かのリオン・ウェアマーヴィン・ゲイ「I WANT YOU」(これは良い!)が収められているのだが(「ヨーロッパ」はサンタナ以上に下世話だったりする)、後にサンタナは「ヨーロッパ」をライヴで演奏する際に「I WANT YOU」のメロディを後半の展開に引用しているのだ。このアイデアは本作にインスパイアされたものかもしれない。

ISAAC HAYES/JOY('73)
「まったくシンボルちゃん様々だぜ」(梅宮辰夫)と言わんばかりの肉体誇示ジャケは、もはや芸風なのだろう。あえぎ声まで入って判り易いことこの上ないセクシー路線が突出しているのだが、ヴォーカルに留まらず作曲・編曲・演奏までコントロールするアイザック・ヘイズは、例えば当時のニューソウルのSSWと同様に、優れたサウンドクリエイターだと思う。冒頭の16分にも及ぶ表題曲がやはり最大の聴き物で、クレジットすらないスタックスのミュージシャンたちによる、グルーヴの最適値のみを残したシンプルにして粘り強い演奏が、ヘイズのドラマチックな歌唱をじわじわと盛り上げる。だがしかし次の「I LOVE YOU THAT'S ALL」はあまりのエロさに思わず目尻が下がり口元が緩むのを禁じ得ず。アルバム1枚聴き終える頃には尻の肉もすっかり揉み解される情の濃さ。何だそれ。

THE ART ENSEMBLE OF CHICAGO/FANFARE FOR THE WARRIORS('74)
このレコードだけかなり毛色が違う。
レスター・ボウイ、ロスコー・ミッチェル、ジョセフ・ジャーマンの3本のサックスが、時に不協和音を奏で、時に力強くユニゾンとなり、複雑なメロディを1音ずつ分担して吹いてみたりと自在に絡み合う「アンサンブル」。ドラムのドン・モイエが雨のように葉擦れのように打楽器を鳴らし、ベースのマラキ・フェイヴァーズの指は行き場なく弦の間を右往左往する。そしてゲストのムハル・リチャード・エイブラムズのピアノが、音の隙間を緊張と不安で埋めていく。こうして激しく渦を巻く音の渾沌から稀に抜け出してくるのは、軽快なブギウギであったり、エリントンのようなスイングであったりする。古典を軸に回転して遠心力を生みながらも、ジャズの引力からは離脱することがない。これも「ジャズ」を賦活する試みだったのだろう。
聴きながら、梅津和時もヘンリー・カウもここから来たのだな、とか、密室芸と呼ばれた時代のタモリがフリージャズとの親和性をもって語られた理由が、歴史の順序からは逆さまに納得されたりしたのだった。