朝の匂い

雨上がりの朝。ドアを開けると冷たい空気に含まれた水と土と黴の匂いが鼻腔に満ちる。自転車で上水沿いを走ると、梢が揺れて時間差の雨が降り注いだ。石神井公園の池を取り巻く濡れたウッドデッキを歩く。マガモオナガガモカルガモに加えてキンクロハジロホシハジロの姿も見えるが、数は多くない。紅葉も遅いが、水辺観察池のほとりのカエデが、緑に縁取られて鮮やかな赤を浮き立たせている。朝靄の水面に反射する陽光が眩しい。深く湿った木々と草と泥の匂い。それらをかき消すように、不意に煙の匂いが鼻に飛び込んでくる。ロングコートに帽子の初老の男性が、散歩しながら気持ち良さそうに煙草をふかしていた。朝の空気とともに吸い込む煙草の味は格別なのだろう。私には想像もできないが、ゆっくりと遠ざかる人の優雅な後ろ姿を眺めながら、不思議と紫煙ではなく朝の充足感を分かち合った思いがする。
タイミングを外していつものパン屋のクリームパン・ソーセージパン・アップルパイは冷めていたが、それでも空きっ腹にレモンティで流し込むパンの味は格別。あまりに腹が減って3つも食べてしまった。