おばちゃんパーマの頃

SHINJUKU LOFT 30TH ANNIVERESARY "ROCK OF AGES 2006"
2006年4月15日 新宿ロフト
出演:ムーンライダーズ/シネマ/ポータブルロック
バンド結成30周年ということで「ほぼ週刊ムーンライダーズ」状態でイベントライヴをこなしているムーンライダーズ。この日は2月10日のサエキイベントに続きロフト30周年記念のライヴ、ゲストはニューウェーヴの時代に同伴したシネマとポータブルロックだ。このゲストのレアさによるものか会場は立錐の余地もなく超満員、しかも楽しみにしていたおでんは冬とともに終わっていた(……)。


最初は野宮真貴鈴木智文中原信雄のトリオによるポータブルロックの、この日限りの再結成ライヴ。かつてはいかにも80年代的なテクノポップサウンドを聴かせたバンドが、ここでは往年の楽曲をパーカッションを加えた完全アコースティック、しかもボッサアレンジで演奏した。残念ながらフロアの最後尾からは野宮真貴の姿を拝むことはできず、中原信雄のベースがタテかヨコかも判別できない有様ではあったが、テクノの意匠を捨てたことにより、野宮の歌と楽曲のキュートな魅力がかえって浮き彫りにされていたのは収穫だった。いわずもがなのことを言えば、ピチカートの曲よりずっと魅力的だ。とはいえ習慣とは恐ろしく、最後の野宮のMCが「ピチカート・ファイヴ最後の曲になります」……まあ10年(!)在籍したバンドだからなあ。にしても「同じPで始まるバンドだから(笑)」って。


続いて、松尾清憲鈴木さえ子・一色進・小滝満らが在籍したシネマが登場。久々にライヴでドラムを叩いた鈴木さえ子が「難しい!これ全然ニューウェーヴじゃないよね。……プログレ?」とのたまったように、10ccやセイラー、スパークスなどのニッチなブリティッシュロックの香りを濃厚に漂わせた音楽性は、ライダーズよりも葡萄畑に近い。ということは中心人物はやはり松尾だったのか。音楽の洋楽臭とは裏腹に、松尾と一色進のMCは異様に気さくなもので、特に一色の呂律の回らない口調が可笑しい。ちなみに一色ファンのnuka氏によると「いつもあんな感じ」だそう。それにしてもポータブルロックにしろシネマにしろ、十把一絡げの「ニューウェーヴ」から離れたことでその本質が浮かび上がるあたり、デビューした時代が不幸だったのか。あるいはNWの時代だったからこそ歴史に光芒を残したのか。


さて、トリを飾るのはもちろんムーンライダーズだ。ダブミックスされた「彼女について私が知っている2、3の事柄」に導かれ、そのまま同曲が演奏される。これに始まり今回のセットは『ヌーベルバーグ』『モダーンミュージック』『カメラ=万年筆』の3枚が中心という、なかなかに珍しい選曲だった。だが、プログレニューウェーヴに接近し、バンドが最もテクニカルだったこの時期の楽曲は、現在のライダーズの状態ではそのニュアンスを再現することは難しい。したがって、体調が万全でないかしぶちに矢部浩志を加えたツインドラムが単純なビートを叩き出し、白井良明がラフなギタープレイを前面に押し出してくることで、ロック的な盛り上がりを会場に作り出す。その姿に正直違和感も感じたが、これが今のライヴバンド・ムーンライダーズのリアリティなのだろう。
そんな違和感もどこかに吹っ飛んだこの日の個人的ハイライトは、ほぼ原曲に忠実に演奏された「バック・シート」だ。慶一の声の衰えは隠せないものの、それでもライダーズの「グランド・ホテル」ともいうべきこの曲のドラマ性は、途切れがちな声とラフな演奏を超えて胸を打つ。もうこれで元は取ったと思った、私も立派にライダーズ信者だ(苦笑)。
アンコールではNWというテーマに則り、ディーヴォ版「サティスファクション」(先日の「サイコキラー」でカヴァーづいたのか)、そして鈴木博文が前に出て、出演者全員で「インテリア」を歌う。会場も声を合わせて「ィエィエィウォウ〜」。野宮真貴鈴木さえ子の2ショットが眼福極まりない。盛り上がる中で、「ラスト・ヒンデンブルグ」のエンディング部分が演奏される。おおっ、松尾清憲を招いて「綿の国星」か!……という期待に肩透かしを食らわせるようにそのまま終了。いかにもライダーズらしいひねくれ方ではあった。


ところで、今回のライヴのテーマは「ニューウェーヴ」だったのだと思うが、それがもっとも端的に現れたのは、白髪にくるくるパーマを当てた鈴木慶一の姿だった。なにこの志茂田景樹。かつて慶一も鈴木さえ子松尾清憲もやっていた「ニューウェーヴ・おばちゃんパーマ」。それを白髪の慶一が再び装うことで、笑いとともに「NWとは何だったのか」という批評性が生じる。ディーヴォ経由のヘルメットをダースベイダーに扮して再現した「サティスファクション」も、NW期のライダーズに対するセルフパロディだろう。こういう彼らのセンスのおかげで、私はムーンライダーズのファンをやめられないのだ。
結論。ニューウェーヴとはおばちゃんパーマである!


ライヴ終了後、山下スキルさん・たんぽぽさん・マユコーさん・nukaさんとお好み焼き食す。お好み焼きなんて数年ぶりだったけど楽しいね。御利益があるかと鉄板から立ち上る煙を浴びたら、翌日体中が油臭かった。