ひびわれた日々

外出しないと無精が募り、数日風呂にも入らない有様。思いきって春の夜寒を掻き分け銭湯へ。服を脱ぎ終え、最後に荷物をロッカーに押し込んだその刹那。どこかに引っ掛かったか、先に外して置いた眼鏡が宙へと滑り出した。「ああ」という自分の間抜けな声を聞く間もなく、眼鏡は鈍い音を立ててビニルタイルの床に落ちた。拾い上げると右のレンズに亀裂が走っている。この上なく無防備な場所でガラスの破片が飛び散らなかったのは幸いだった。半ば放心しつつ浴室へ。何も考えず考えられず、習慣が命ずるままに体を洗い浴槽に浸かるのを数回繰り返した後、再び脱衣所へ。改めて眼鏡の破損を確認する。確認するまでもないのだが。思えばレンズとフレームは一心同体、先に世を去ったフレームの後を追ったのだろうか。修理代のことなど考えながら自転車で帰路を走るうち、寒さにニット帽を荷物から取り出そうとして、風呂道具一式脱衣所に忘れてきたことに気づく。銭湯に引き返し、ようやく家に着く頃には体がすっかり冷えていた。いまモニターを覗く右目の奥で、レンズのひび割れを通り抜けた蛍光灯の光が乱反射して視界を遮る。そういえば昨日で本厄を迎えたらしい。おめでとう自分。何とかなれ。