格安ボディソニック

吉祥寺に出たついでにドトールに寄る。ドトールのコーヒー券は購入した店でしか使えないので、この吉祥寺店に専ら通うことになる。22時閉店まで1時間を残す店内はさすがに空席があるものの、照明の明るい窓際の席は読書する客で塞がっており、カウンター前のスタンド席に。山之口洋『完全演技者-トータル・パフォーマー-』(角川書店)読む。80年代初頭のニューヨークを舞台に、トータル・パフォーマーと呼ばれる異形のアーティストの運命を、彼と行動を共にする日本人ロック歌手の視点で描く。主人公とバンドとの出会いのあたりまで進んだが、かつての少女漫画が描いたロック漫画のような懐かしさを覚えた。そういえばデビュー作『オルガニスト』も萩尾望都を思わせるところがあったな。
店では当たり障りのないジャズが流れているが、夕方を過ぎると同じ建物のライヴハウスから漏れるベースとドラムの重低音が、床や壁を伝って客の身体を揺らす。安上がりのボディソニックだと思えなくもない。側の席ではバンドをやっているらしい女の子たちが、譜面を見ながら英語の歌を小さな声で歌っている。外国人客の英語のお喋りも聞こえてくる。だからといって吉祥寺のドトールが『完全演技者』のNYと重なったりはしないのだが。閉店間際に本を閉じて外へ。自転車をすり抜ける夜風は暖かい。空気を暖めた太陽よりも月や星を眺める時間のほうが長くなってしまった。