東村アキコ『きせかえユカちゃん』8巻(集英社りぼんマスコットコミックスクッキー)

この最新刊たいへん面白いです。湯川母娘を中心に早熟な子供たちと未熟な大人たちとが形成する、ある種のユートピアにも似た共同体の楽しさは、この漫画の最大のファンタジーだ。だが、ユートピアらしくユカたちは一向に進級する気配がない一方で、大人たちの関係は前巻でのユミと茂の別れに続き、スグルの教職就任、貞子の結婚問題とリアルに揺れ動く。そんな大人チームの複雑な事情が、ユカたち子供チームの介入によって笑うべき陳腐さを明らかにしながら、同時に笑えない切実さをも強調する。この相対化の絶妙なバランスが『きせかえユカちゃん』をぬるいファンタジーに留まらないスリリングな作品にしているのだといえよう。ユカ母描く恋愛ドキュメント漫画はスリリングすぎよう。絵柄も投稿先も。
ところで本刊の後半は、今はなき『YOUNG YOU』誌に掲載された「ドライアイス」が収録されている。つーかこの正編よりも先に続編『ゑびす銀座天国』が単行本化されている不思議。大滝詠一が「福生ストラットPART2」をPART1より先に出したようなものか(違う)。おかげで『ゑびす銀座天国』で判らなかった女子大生の顎の傷の由来や、コオロギとの接点がようやく理解できた(本当にこの編集は何だかなあ)。ナレーションを交えず、僅かに発するぎこちない言葉と行動、表情などの外面描写のみで、主人公の人間性を伝える東村アキコの描写力は高い。顎の傷を貯金箱に準えるイメージがシンプルだが鮮烈。続けて『ゑびす銀座天国』も再読したが、こちらもストーリーテリングの巧みさに改めて痺れた。(→初読時の感想