空気公団『やさしい朝』(05年)

4人から3人へと数を減らし、最後には2人となって第1期の活動を終えた空気公団の、この3曲入りマキシシングルが第2期最初の録音となる。
1曲目「暮らし」が部屋の空気を揺らす。どっしりと重いドラムに間を取って弾むベース、音数の少ないピアノ、アコースティックギター、オルガンのシンプルな編成。アメリカはバーバンクを根に、日本のティンパンアレーに受け継がれ、日本のポップスのスタンダードとなった音を、空気公団もまた受け継いでいる。つまりはこれまでと特に変わるところはない。変わらないことに意味があるといってもいい。そのアーシーな音に乗る山崎ゆかりの声は以前よりわずかに艶を増し、アルデンテに茹でたパスタのように、柔らかい声に細くて固い芯が通ったように聞こえる。この変化は2人になってさらに役割に重みを加えたからだろうか(もとより彼女が空気公団そのものともいえる中心人物なのだが)。
そうして歌われる言葉には「ひとり」の感触が漂う。「君」と「僕」は必ずしも同じ場所にはいない。だけれども、そこには孤独ではなく、「ひとり」の場所が他者のいる場所へ繋がっているという信頼がある。「一日の終わりがつながっている」「いろんな暮らしが重なっている」(暮らし)「電車は走る 新しい朝の中」(やさしい朝)。その電車は「君」の街と「僕」の街を繋いでいる。ひとりの「僕」がひとりの「君」と繋がりあう、この開放的な空気がとても心地良い。
「風に乗った言葉」は、私たちのいるインターネットという場所のテーマソングにしたい。

散らばった
言葉を雨に流してもいいのです
少しずつ雨に打たれて新しい意味を持つ
だから雨の街はきれいさ

ところで表題曲は映画『鍵がない』の主題歌なのだが、この映画に松田賢二氏が出演されているではないですか。ザンキスキーの皆さんは要注目ですよ!*1

*1:すべてのエントリを響鬼に結び付ける「響鬼メソッド」。