DANIEL LANOIS/BELLADONNA('05)

音響に独自のセンスを持つプロデューサーにして、フレンチ・カナディアンのルーツに根ざした味のあるシンガーソングライターでもあるダニエル・ラノワ。その新作は、自らは歌うことなく楽器演奏に徹したインストゥルメンタル・アルバムだ。しかも参加メンバーにはブライアン・ブレイドds、ダリル・ジョーンズb、ブラッド・メルドーpと、世界最高のミュージシャンが名を列ねている。
このメンバーを目にして想像したのは、元ジャパンのメンバーたちによるRAIN TREE CROWのような音楽だったのだが、考えてみれば打々発止のアドリブの応酬がラノワの作品で聴かれるはずもない。テクニックをひけらかすことなく最小限の(だが効果的な)貢献に留めた彼らの演奏は、ラノワの作り上げる音響空間に三次元の座標を与えて、スケールを大きく拡げてみせる。名手達の控え目な共演に支えられて、ラノワが奏でる哀愁あるギターやペダル・スティールの音色を核にした演奏は、時にジョン・フェイヒィを思わせ、時にイーノ〜細野晴臣流の「アンビエント」に接近する。音響派ルーツ・ロックとでもいえばいいだろうか。歌声こそ聞こえないものの、ギターの爪弾きのひとつひとつに載せられた感情の豊かさは、やはりsongsと呼ぶのがふさわしい。
窓を薄く開けた部屋で、換気扇の風音や冷蔵庫の唸り、車のエンジンノイズ、天井の軋みなどと混じりあい流れるダニエル・ラノワの静謐な音楽は、部屋と外界、自己と見知らぬ他者との境界さえ緩やかに溶かしていくようだ。