組み合わせの妙/微妙

EARTHDAY LOVE & MUSIC DAY/2005
出演:ムーンライダーズ/Killing Time+小川美潮カーネーション
2005年4月22日 渋谷AX
ムーンライダーズカーネーションの組み合わせは、近年では珍しいかもしれないが別に驚くことではない。しかしそこにキリングタイムが加わるとぐっとレア度が上昇する。アースディ云々はともかくブッキングの主旨はやや謎だが、各アーティスト単独のライヴには足を運ぶのをためらう客にとって大きな訴求力ではあった。ただしパッケージとしてのお得感と、各ステージの短さを秤にかけてどちらに傾くかは微妙でもあったかも。そこで「もっと長く観たい、聴きたい」と思わせればアーティストの勝ちだが、そういう意味で勝ったのはどのバンドだったか。
開始前のBGMが東京中低域だったので何かと思えば、まずその東京中低域水谷紹が一人ステージに上がり、淡々かつ飄々と詩を朗読、ステージの幕を開けた。
最初に登場したのはキリングタイム。活動再開以来彼らにしてみれば精力的にライヴを行っているが、今回のメンバーは板倉文(g)、清水一登(key,marimba)、Ma*To(tabla,key)、whacho(per)、mecken(b)、斎藤ネコ(vln)。高い技量を持つメンバーが、自在に音を場に投げ入れ戯れ合い、対話しつつポリリズムというかマルチグルーヴをうねらせていく様子は圧巻でもあったが、気負いのない佇まいと演奏の余裕ぶりが、観客を脅かすことなくゆったりと音の波の中で寛がせる。ステージでは清水一登のフリークぶりがやはり際立ち、当日入っていたテレビカメラも専ら彼の動きを追っていた。カンタベリーと東南アジアとポリネシアが出会ったような不思議で懐かしいサウンドの中で、清水のマリンババラフォンガムラン竹楽器にまで先祖帰りして聞こえた。やがてゲストの小川美潮が合流し新曲を含む歌を披露、バンドとの長い歴史で培われた親密な空気を漂わせる。ほとんど天女か地母神のような大きな母性を感じさせる彼女の歌声に包まれながら、かつての年齢不詳の少女性が懐かしくなったりもするが、それは単独のライヴなり、いつか聴けるだろう新作で披露されるのかもしれない。優しい音の雨のようなキリングタイムと小川美潮のステージは、ごく短い時間でアンコールもなく終了。今回最も短く感じられたのは彼らの演奏と歌だ。
次に現れたのがカーネーション。私は5人時代の彼らをろくに知らないし、ライヴを体験するのも初めてだ。ツアーではギターとキーボードを加えた5人編成で演奏しているそうだが、今回は「そして3人が残った」直枝政広(vo,g)、矢部浩史(ds)、大田譲(b)のトリオによる演奏。音が出るや、ドラムの大音量が耳を聾する。ベースドラムとスネアの音ばかり強調されて、ベースの音が聞こえない。これはPAの問題だが、音楽そのものもファンクと大音量ハードロックを貫く彼らの演奏は、中期のツェッペリンを思わせる(ここで一斉に「エエエエエエ!?」という突っ込みが)王道のハードロックに回帰していた。過去のイメージを払拭しようとしているのだろうが(事実、新しい若いファンを獲得しているそうだ)椅子席で「動かざること山のごとし」な観客を前に、ロックであろうとするカーネーションはやや痛々しくも見えた。とはいえ矢部浩史のタメを作りつつも贅肉のないドラミングと、大田譲のソウルフルに歌うベースのコンビネーションは素晴らしい。直枝の色気のある歌声といい、この表現力をこのサウンドに押し込めるのは無理があるようにも思われた。
鈴木慶一の盟友ともいえるパンタのポエトリー・リーディングに導かれて、トリを飾るムーンライダーズがいよいよ登場。なのだが、何とドラムのかしぶち哲郎が体調不良で欠席というアクシデント(「ぎっくり腰」という情報を得てやや安心。大変なことに変わりはないが)、文字通りの怪我の功名で「鬼火」「グルーピーに気をつけろ」「水の中のナイフ」といった旧曲を、ドラムレスのアコースティックセットで演奏するというレアなステージとなった。リズムは武川と慶一のタンバリン、打ち込みで対処。わずか3日前に見舞われた不慮の事態にこうして対応できる懐の深さは、さすがに日本最古のロックバンドだけのことはある。歌が終わるやドラムセットに取り付きドタバタと叩くフィル・コリンズ状態の(笑)慶一の姿は涙ぐましくも感動的。偉い。歌の音程がやばいのは仕様です。それにしても主人が不在のままステージに佇むドラムセットの姿は、『ロンパールーム』の伝説のぬいぐるみのようで寒々しかった。どうせCDでは打ち込みだから、とはいかないかしぶちの存在感を逆に感じさせはしたが。
アンコールでライダーズにカーネーションが加わり「夜の煙突」「Frou Frou」の2大名曲を演奏、ようやく観客も立ち上がり体を揺らした。「夜の煙突」で手を振っていたのはカーネーションファンのお約束なのね。半人前の所帯が寄り添った、1.5人前のバンドによる演奏。これがなかったら今日のライヴは辛いものになっていただろう。ライダーズにカーネーションのリズムがあれば最強、とも思ったが、かしぶち+フーちゃんのリズムにはそれ相応の味わいがあるのだ。それを聴けなかったのはやはり残念ではあったが仕方がない。
今回のようなライヴは、それぞれのバンドのファンにとって他のバンドと出会う機会でもあるのだが、そのサンプルとしてカーネーションとライダーズの演奏が相応しいものだったとは言い難いかも。その意味で得をしたのは、人員的にもPA的にも(カーネーションとライダーズはPAのバランスが悪かった)万全の状態で臨むことができたキリングタイムだろう*1。物販で売られていた復刻CDも結構売れたのではないか。売れたらいいな。せっかくだから3者による共演も聴きたいところだったがまあ無理か。かものはしばしさんが「みんなでフランク・ザッパのPEACHES EN REGALIAやれば良かったのに」と言っていた。おお、ザッパという共通項があったか! 遅いけど。いやもう皆さんお疲れさまでした。特にライダーズの皆さんは頑張った! あんな50代ありえないよ。

*1:キリングタイムもPAは良くなかった模様。それでもあれだけの演奏ができるのは立派。