マグースイム ほか

以下古書店にて5枚300円で購入。


マグースイム『糸の鎖』(97年)『いつのまにか』(98年)『君に愛されたい』(98年)
90年代後半に活動し、すでに解散してしまった70年代風歌謡R&Bバンド。上は全てシングルだが、男女ヴォーカルの掛け合いで歌われる歌謡曲的なメロディと、レア・グルーヴと呼ぶほどにはスカしてない隙間のある演奏の組み合わせが今聴いても魅力的だ。にも関わらず売れなかったのは、良い歌・良い曲・良い演奏があれば充分と言わんばかりの鈴木惣一朗の簡素なプロデュースが、ポスト渋谷系の時期にはナイーヴ過ぎたのか。同時期の小西康陽のしぶとさ、あくどさとは対照的だ。それはさておき『糸の鎖』収録の矢野顕子のカヴァー「昨日はもう」の解釈は素晴らしい。一方、時系列としては後の方になる『君に愛されたい』は実にこなれたモータウン歌謡だが、ヴォーカルの2人の絡みがなくそれぞれ独立しており、解散に向かう伏線かなどと後付けしてしまう。
ハックルベリーフィン『ハリケーン』(01年)
これもシングル。先日のNHKFM『蔵出しライブビート』で聴いた演奏が良かったので購入してみた。とにかくこの人たちは演奏が上手い。この録音も3ピースによる一発録りのスタジオライヴに音を重ねたものだと思うが、スピードを維持したまま一瞬で演奏を切り替え、なおかつコーラスもバッチリ決める力量は、デビュー以前に相当鍛えられたのだろう。ちょっとラウドで抜けの良いギターポップはなかなか爽快だ。このバンド名や、未来への希望を歌う歌詞、ヴォーカルの声質の甘さなど、あからさまな少年っぽさは正直眩しいのだが、こういうケレン味のない青春ソングが普通に流行ってもいいんじゃないか。などと年寄りくさく言ってみる。
五輪真弓『マユミティ』(75年)
これのみレコードでいきなり古い。五輪真弓については以前ベストアルバムを聴いた感想を書いた。

五輪真弓『THE BEST』(77年)
五輪真弓荒井由実吉田美奈子を分けたのは、ティンパンアレーとの関わりの有無である、というのは別に冗談ではない。
五輪日本人アーティストによる海外録音の先駆けとして知られるが、それは「キャロル・キングの音を(キャロル本人含む)同じスタッフによって再現する」という非常に理に適い判り易い発想によるものだった。後のフランス録音もその延長にある。
しかし、その発想の安易さが、洋楽の制作システム日本に移入しようとする努力と誤解から独自性を獲得していった「ニューミュージック」というリーグから微妙に五輪を斥けたとも言える。このベスト盤に収められた楽曲のどれもが、バーバンクスタッフ貢献だけでは語れない、新鮮な歌詞とメロディを持つ佳作だけに五輪真弓がこの世界を発展させなかったことを惜しむ。
歌唱も後年の大シャンソン路線からは想像できない、生硬でクールな感触が好ましい。
なお、マンタ抜きティンパンが演奏を担当した「十九歳のとき」も収められているが、海外録音以上に素晴しい出来である。とりわけメロディアスで閃きに満ちた細野ベースが絶品だ。
ライヴテイクではリー・スクラー、クレイグ・ダーギーのセクション組と林立夫大村憲司らの夢のセッションまであり、ここでも日本勢は一歩も引けを取っていない。
それにしても「煙草のけむり」「少女」はやっぱり名曲。
http://www7.ocn.ne.jp/~marron/diary0308.html#030808

そして本作『マユミティ』が上で触れた「十九歳のとき」の初出で、ティンパンの演奏はこの1曲のみだが、他の曲も村上ポンタ秀一高水健司深町純、岡沢章などの日本人プレイヤーがバックを勤めている。ザ・セクションによる内省的なシンガーソングライターのサウンドを、日本のスタジオプレイヤーが模倣し発展させてきた成熟が、75年の日本のシーンにはすでにあった。五輪はその果実のみを拝借したという意地悪な見方もできるが、それでもここでの五輪真弓には、荒井由実大貫妙子吉田美奈子矢野顕子などの同世代の女性歌手と同様、新しい日本のポップスの担い手としての瑞々しい輝きがある。