みんなでお茶を

夕暮れの武蔵境。カットのみ950円の床屋で散髪、書店で長嶋有『パラレル』(文藝春秋)購入。エクセルシオールカフェ橋本治『浮上せよと活字は言う』(平凡社ライブラリー)読む。小一時間過ごし外へ。店の前に並べられたテーブル席では、初老の夫婦が何を話すでもなく、駅から吐き出される人波を見ている。
武蔵境にはこの店とスターバックスカフェがあり、後者もテーブルと椅子が店の外にも用意されている。さすがにこの暑さでは日中に店外で過ごす客は少ないが、日が傾いて涼しい風が吹く頃になると、年輩の夫婦やベテラン主婦たちが陣取って、思い思いの時間を過ごす。
そのような様子から連想されるのは、いわゆるオープンカフェなどではなく、昔ながらの縁台に腰掛け将棋など差す老人たちの姿だ。日本という田舎が要請した虚構の西欧としての「カフェ」が、何の気負いもなく地元の人々が憩う「縁台」と化している。その風景は、夕闇が空を覆い始めた小さな町の風情に似合っていた。自分が持っていない「生活」の厚みと豊かさに胸を詰まらせる。
武蔵境・三鷹・吉祥寺。地図の上では直線上に並ぶ3つの点の間を移動しながら、私は武蔵境というつつましやかな町に愛着を覚え始めているのだ。
街灯に誘われる蛾のように、煌々と灯が点るブックオフの店内へと吸われて、犬上すくね『ういういdays』1巻(竹書房)を350円で購入。せめてもの日々の彩りか。