漁火の夜

とうに日は落ちたのに、空がまだ明るい。
頭上を覆う雲が地上の灯を映しているのだ。
雨上がりの湿り気を含んだ風に、函館の夏の夜を思い出す。
夏から秋にかけてのイカ釣り漁の季節、イカを引き寄せる漁火が百万ドルの夜景に加わって、長くはない北国の夏の夜を白夜のように仄明く照らし出す。大都市圏に比べいまだ夕闇の濃い地方都市に、季節の移り変わりを告げる風物詩である。
もっとも、我が武蔵野の夜空を橙色に染めているのは、ゴルフの打ちっぱなし練習場の照明なのだが。傍らのブックオフバーミヤンから漏れる灯に引き寄せられるのは、金曜の夜に行き場のない寂しい人間たちばかりだ。