夢路行『春の回線』(潮出版社)

花輪和一があまりにも濃かったのでデザートに購入(笑)。ブックオフにて350円。
パソコンが結ぶ、2人の娘の時を超えた奇縁を描いた表題作(という説明から想像する物語とはたぶん違う)。
雨の日に部屋を訪れたアロワナが運ぶ南国のビジョン「アロワナ通信」。
南海の孤島に住まう人魚と、ある日流れ着いた青年との恋物語「天然色の楽園」。
キャンプ場で天狗と出会った女子大生が頼まれて龍を探す「小龍探し」。
お嬢様お抱えの獣医が任された巨大な動物「お嬢様といっしょ」。
自由を求めて王宮から密林に逃げ出した7人の王女「密林天国」。
文化祭の派手な出し物として恐竜を作ろうとする女子高生たち「1-A実験ノート」。
こうして並べると、全編に「異類/異界との交流」という緩やかなテーマが流れていることが判る。
それらの事件は穏やかな日常を一瞬騒がせはするけれど、決定的に変えてしまうことはない。ただ、ほんの少し新鮮な風を吹き込んでは、元の日々に戻って行く。
その意味では保守的な作風とも言えるが、日常性への信頼に根ざしたささやかな「エヴリディ・マジック」は、その保守性ゆえに心地良いのだ。