花輪和一『不成仏霊童女(ふじょうぶつれいどうじょ)』(ぶんか社)

表題のシリーズ6話分ほか全収録作の初出である雑誌『ホラーM』が凄い雑誌であることは仄聞していたのだが、凄くない私はスルーしていたのだった。
ピンクの帯の下に描かれたモノのエグさといい、カバー折り返しの「著者霊障略歴」といい、400字詰原稿用紙30枚に及ぶ後書きといい、これは相当に力の入った一冊だ。
ふとした手違いから現世と来世の狭間に立つ「不成仏霊」となった童女(例の丸顔の花輪キャラ)が、人の業が生み出すこれでもかな地獄絵図を淡々と見て回るという、いかにもな花輪因業ワールドがテンコ盛りに展開され読み応えは満点。
ていうか、銃刀法違反で旨い飯(本当に)を食った後の花輪作品には、どこか達観したような透明感すら漂っていると思っていたのだが、2000年から今に至るまで描き継がれている本作に登場する人々の因業っぷりたるや、とても達観とは程遠い下世話極まるものだ。
例えば本作には花輪の中世物には珍しく、「人のこわれやすさを見たかった」という理由で無辜の童女2人を殺した少年や、執拗ないじめに苦しむ少女など、現実と直接にリンクするエピソードが登場する。扱いがデリケートな題材とも言えるが、「犯罪者の人権」や「復讐の不毛」といった近代的な価値観は、呪いは必ず行使され成就される中世的な因果応報メカニズムの前で徹底的に蹂躙され、それがあまりにも酷すぎる残虐描写と、にもかかわらず笑わずにはいられない滑稽さによって、他の漫画ではありえない大きなカタルシスに繋がっていくのである。
「死ね〜っ! 死ね〜っ! くたばりやがれ! くそばかども! 地獄におちろ! 皆殺しだ〜っ!」……ああ、何と判り易くも清々しい情念の発露であることか(そうか?)。
ところで、通常胡散臭いものとされる超越志向を、花輪は隠そうともしないのだが、これが全く臭みを感じさせないのは、花輪の飽くなき身体性への執着によるのではないか。
本書ではスカトロ、SM的に秀逸な描写が続出するのだが、とりわけ衆生を救うため樹木の霊力を手に入れんとする修験者が、頭に木の枝を、肛門に根を挿入して一心に念ずる姿は圧巻である。
やがて彼が誓願成就する貴い瞬間に私は爆笑した。
「己の認めたくない短所を認める勇気を出さないよう努力しながらマンガを描く」花輪先生の姿勢にあやかりたい。