畸人宮

Magical Power Mako Super Progressive Band
2007年4月7日 秋葉原dress TOKYO
出演:Magical Power Mako Super Progressive Band
マジカル・パワー・マコ(g,kb,voice)/吉田達也(ds)/津田治彦(g)/桜井良行(b)/大森俊之(kb)
ゲスト:珠希真利(cello)/語り部ミウ(voice)/魔ゼルな規犬(馬頭Rap)/立島夕子(スーパー・ヴァイオレント詩人)/神沢敦子(痙攣的身体展示)/Syadooo(シキ)/あなるちゃん(Noise Vocalization)/ゑれき駄ゑれき(フェチ系パニック&ノイズ・ギグ)/Lui666(丑三時器具類凶呪)/QPT & shimi(Puppet Show)
opening act:エルガ(vo) with 津田治彦(g)/桜井良行(b)/(不明)(ds)

吉田達也津田治彦らの強力なメンバーとともに演奏した、昨年末のマジカル・パワー・マコのライヴは大変に充実した内容だった。*1本人も良い感触があったのだろう、同じ演奏者と異形のパフォーマーたちによる、今回は2度目のライヴとなる。
会場も同じ秋葉原dress TOKYOだが、最前列には2列の椅子が並べられている。プログレ系のライヴではよくあるが、前回にもあったか記憶にない(たぶんなかったと思う)。
オープニング・アクトを務めた女性シンガーのエルガは、日本的トラッドという風情なギター弾き語りを聴かせた。そこに津田らのサポートを加えた音の佇まいは、日本的な情緒を匂わすシンフォニック・ロックと言っていい。続いて登場した珠希真利のチェロと大森俊之のキーボードの共演もシンフォの叙情を強く感じさせるもので、用意された椅子席といい、ここはプログレの殿堂シルバーエレファントなのかと思わされる。
そのような雰囲気の中で他のメンバーが演奏に加わり、やがてマジカル・パワー・マコが登場。実力あるメンバー同士がぶつけ合う音は大変に気合いの入った正統派のロックなのだが、演奏者の素性が確かなだけに、冒頭からの展開を引き継いでややもすれば「大変格好良いプログレッシヴ・ロック」に回収されてしまうのではないかとも思われた。
のだが、ヌードダンサーが登場したあたりで様子がおかしくなってくる。学芸会風な白い衣装に身を包んだ天使による寸劇はやがて惨劇に変わり、馬の首を被った男に率いられた畸人たちが、扇風機と一斗缶と便所用ラバーカップ(いわゆるカッポン)をもって陵辱と暴力の限りを尽くし、安全なプログレライヴの特等席だったはずの椅子席は、一瞬にして恐怖のリングサイドと化したのであった。嵐が止んだ後パフォーマンスが再開されようとしたが、一斗缶に入っていた灯油(!)が揮発し引火の危険があるということで一時中断。これは単に灯油が残っていたのに気づかなかったのか、それとも意図的か、いずれにせよドリフのコント的な予定調和をはみ出したのは確かだ。暴れていた当人達が呪詛を吐きつつ清掃していたのが可笑しい。
10分ほどの中断を挟み演奏再開。強者たちをバックに朗々と響く「あなるちゃん」の怪鳥音ボイスは音楽的にも聴かせるものだった。前回のライヴよりもパフォーマンスが演奏と融合している姿は、一種の総合芸術と言えるかもしれない。もっともそんな高尚なものではなく、最後にはストリップやら馬頭妄言やら血まみれ自傷男やらが狭い舞台の上で同時多発的に狂宴を繰り広げる様には、どこに焦点を合わせていいか判らず目を泳がせてしまった。
全体に出し物としての練度はさらに上がっていたものの、あまりにもエクストリームというか、やり過ぎの感は否めない。アンコールの拍手が起こるまでのしばしの沈黙は、呆気に取られた客の虚脱感か、「もう勘弁してください」という心の悲鳴か。それでも、小金持ちのファンから集金するための「プログレ」ではない、何が起こるか判らない客席との緊張感を作り出す「アングラ」の凄みは充分過ぎるほど味わうことができた。プログレッシヴ・ロックの原点とはこういうものかもしれない(そうか?)。*2

*1:http://d.hatena.ne.jp/marron555/20061216#p1

*2:ジェネシス時代のピーター・ゲイブリエルの奇怪な姿を、私たちは海賊版ビデオやYouTubeで半笑いを浮かべつつ眺めるが、リアルタイムのステージ・パフォーマンスとして間近に目撃した観客にとって、あれは本気で恐ろしいものではなかったか、とか。