寝ながら泳ぐレムスイム

レムスイム『アンダースロウ・ブルース』発売記念ライヴ
2006年5月12日 吉祥寺MANDA-LA2
出演:レムスイムいとうまさみ福岡史朗&小見山範久
興味はあったけれど聴きそびれていたバンド・レムスイムのレコ発ライヴを観に吉祥寺へ、いつものように自転車転がす。開場時には行列ができているものと覚悟していたら誰もいない。集客は大丈夫なのか、などと心配したが結局立ち見の出る盛況となった。重畳。


最初に登場したのは福岡史朗(vo,g)と小見山範久(g)。長身痩躯で若い頃のロン・ウッドのような風貌の福岡には、ギターを抱えてステージに立つだけで匂い立つロッカーの存在感がある。福岡・小見山とも親指を利かせたピッキングを多用したプレイには、カントリーやブルースなどアメリカ南部のルーツが匂い、ギター2本というシンプルな構成だからこそ、夾雑物のない骨太でロッキンなグルーヴが直に伝わる。そんな乾いた音に乗せて、日々の感情をさりげなくフラットに伝える福岡の歌声が魅力的だ。相方の小見山のギターも、華麗なリックをひけらかすでもなく、歌の隙間を縫って繰り出すダウンストローク一発、チョーキング一発で絶妙な高揚感をもたらしていた。笑みを交わしながらギターで交歓する2人の男の友情に、私が女子だったらもう胸キュンですよ!(キモい)「似たような曲ばかりでつまらないでしょうが」などと福岡は言っていたが、シンプルな骨格の中に血肉化されたロックの核がある、とても良い演奏だった。


続いてはピアノ弾き語りのいとうまさみさん(何故さんづけかというと知人だからです)。いとうさんのピアノはスケールが大きい。一般にポップスのピアノ弾き語りというと、8ビートや16ビートのバッキングをいかにピアノ1台で表現し、なおかつ飽きさせない変化を加えるかということが目的となり、ややもすればせせこましい印象となる。いとうさんの場合は非ロック的な場所に自分の表現したい音楽の全体像があり、ラウンジ・ジャズのスウィングする4ビートや、シャンソン風の大きなノリを悠然と奏でる、その雰囲気はかつてのジャズの巨人のようだ。はいそうです言い過ぎましたすみません。そういう「大人のポップス」の上で、乙女フィルターを通してキラキラと輝く世界が少女の声で歌われると、これはもういとうさん独自の世界だ。一音も聞き逃すまいと耳をそばだてるのではなく、誰もが武装解除して寛げる音楽。寛ぎすぎた客もいたようだけれど、それはいとうさんの音楽の力です!


そして、本日の主役のレムスイム。私はこの時まで、名前と男女2人組という編成から、穏やかな声に洗練されたバックが付いた空気公団みたいな、あるいはふわふわした音響派的な音楽を想像していた。全っっ然違いました。スワンプやニューオリンズファンクやブルースの血も濃厚なルーツ・ロックサウンドで、しかもそのフロントでテレキャスターをパキパキ鳴らしながら汗まみれで歌うのは大久保由希という若いお洒落な女性なのだ。なにこれこんなバンドありえない!この意外性が実に痛快。フリーボやさかなにも方向性は近い気もするが、レムスイムはよりグルーヴィでカジュアルだ。日常風景の一瞬を切り取り、あるいはそこから身近なドラマを展開させる大久保の気取りのない歌も、レムスイムの音楽をより親密なものにしている。メンバーの内田典文のベースとともにアーシーなボトムを支えるふくだげんのドラム、グルーヴを倍加する福田恭子のパーカッション、ファンキーにテレキャスターを唸らせる福田慎のギターなど、バンドの演奏も実に的確で気持ちいい。中でもやはり特筆すべきはライオンメリィの参加で、転がるピアノやオルガンの本物のプレイは、バンドのルーツ志向に確かな骨を与えていた。実は最初会場のドラムの音が大きく、ヴォーカルをマスキングしてしまってよく聴き取れなかったのだけれど、PAが落ち着くにつれ力押しに聞こえたふくだのドラムが細かいニュアンスを含んでいるのがわかるようになった。*1このドラマーと福岡史朗が組んだ「BOXCOX」は、きっといいバンドに違いない(聴いたことないのです)。予期せぬ2度目のアンコールに急遽ギター弾き語りで演奏されたバラード曲では、バンドサウンドとは別に、大久保の歌手としての魅力とギターの確かな腕前をよく味わうことができた。


3組を聴き終えて、もしもいとうまさみの感性が福岡史朗サウンドで表現されたらレムスイムになるのではないか。なんてことを、いとう・福岡両氏を敬愛する大久保の言葉とともに想像したのだった。この手の届く場所にある「オルタナティヴなポップ・シーン」はとても大切なものだ。

*1:アルバムではドラマーでもある大久保が叩いていて、これがまた秀逸だ。