バッチグー!

第21回吉祥寺音楽祭
2006年5月3日〜7日 吉祥寺駅北口ロータリー野外特設ステージ
出演:上記リンク先公式サイト参照

毎年5月の連休に行われる吉祥寺音楽祭。70年代のフォークの街の記憶を受け継ぐかのように、ジーンズに髭の若者やかつての若者がギターを抱えてステージに上がる。私が足を運んだ最終日はあいにくの雨だったが、それでもテント下の椅子席は年配の客で埋まっていたし、その両脇では若い客が傘を差しながらステージを見守っていた。正直傘が邪魔だと思ったが、雨覚悟のカッパ装備で参戦というノリではなく、たまたま街を訪れた人が気楽に覗けるというのが良さなので仕方のないところ。私は傘を閉じて濡れていましたよ。去年の狭山フェスに比べたら雨のうちに入りませんよこんなの(比べるな)。


私が見始めたのはハンバートハンバートのステージから。この日は佐野遊穂voと佐藤良成vo,acg,fiddleにベースとペダルスティールが加わった4人編成。佐藤の作る素朴なだけでなく時に奇怪で幻想的な歌詞と、美しく懐かしいメロディは、ドメスティックなフォークというよりアイリッシュトラッドの香りを漂わせる。吉祥寺には小学校から高校まで通ったという佐野の、儚いようで凛と強くどこまでも伸びる声は、雨の駅前の喧騒を遮り、その場だけに静寂を作り出していた。そんな佐野の声と、佐藤の暖かく乾いた声の組み合わせはとても魅力的で、かつてのフォークファンにも届いたに違いない。2人の歌を縫い合わせるようなサポートのベースもとても良かった。ハンバートの2人はこの後も各出演者のサポートで活躍、ベテランたちからの信頼ぶりが窺えた。


しばし会場を離れてぶらぶらした後、戻ると中川五郎のステージが始まる。中川イサトgとHONJI vlnを従え、ルー・リードの日本語カヴァーでいきなり弦を切る熱演。「今日は5本の弦で演奏します」といったそばから次の曲でもう1本弦を切り、イサト氏に張り替えてもらうという一幕。その間のMCで語られる、高田渡のこと。この吉音のあるいは街のシンボルともいえる高田渡は、その不在によって今年の音楽祭に場所を占めていた。今回の出演者たちにもその思いは深いのだろう、五郎氏は「告別式」をカヴァー。その後も、今度は弦を切らないように多少慎重になりつつも、ギターを掻きむしり叫び踊るアグレッシヴな演奏で、金髪とともに現役ぶりを示していた。この頃になると雨も上がりテントを取り払って見通しもよく、押し寄せた客がロータリーまで溢れていたという。いつも客が来ないと日記で嘆いている五郎氏も、この夜は気持ち良く酒が飲めたのではあるまいか。


続いて中川イサトのステージ。冒頭で「今日は(インストではなく)全部歌います」と宣言。「その気になれば」を歌ってくれるとは思っていなかったので感激。かつてのナイーヴな声は年輪を経て太く力強く、確かなギターの響きとともに説得力を持って胸に響いた。さらに、春一番から同行した村上律がバンジョーを持ってステージに上がる。私にとっては初めて触れる律&イサトの歌と演奏だが、これが素晴らしかった。楽器の名手同士の妙技に加え、村上律の飄々としてユーモラスな歌声と中川イサトのハーモニーで表現される世界は、70年代の若者のリアルで情けない心情なのだけれど、それはじめじめと湿ったりせずに乾いていて、アメリカ音楽への憧れが地に足の着いた日常性を伴って血肉化されていた。これは都市音楽としての日本語のフォークの理想的な姿ではないか。五郎氏と同様イサト氏も渡ナンバーをカヴァー。かなりブルージーな「生活の柄」は、これまた大変に滋味深く。


妙齢の女性たちが大挙してステージに上がった、タンポポ団ならぬ武蔵野マーガレット。私は竹田裕美子と宮武希しか顔を知らなかったのだけれど、実は大変なメンバーだった様子。バックには律とイサトと渡辺勝らが参加。「高田渡さんを送る会」で結成されたそうで、この日も渡ナンバーから「リンゴの木の下で」「私は私よ」を合唱。渡氏への愛を華やかに表現していた。この穏やかな歌声の後でステージが大変なことになろうとは。


そしてついに登場、トリを飾るのは吾妻光良&ザ・スウィンギン・バッパーズ。ホーン8人を含む総勢12人がステージに上がった姿はまさに壮観。強力にスウィングする演奏に導かれ、吾妻光良がギターを抱えて現れると会場は一気にヒートアップ。ベテランフォークファンが多かった会場の前方にはいつしかロカビリーな若者たちが押し寄せ雰囲気一変。だがそんなファン層も納得の否応無しに体を縦横に揺らすグルーヴと、少ない髪を振り乱しながらギターをかき鳴らしダミ声で歌う吾妻のスター性はまさにロックンロール! その歌詞は中高年サラリーマンのしみったれた日常の喜びや怒りや悲しみを歌いながら(ブルース!)、それがあらゆる世代の観客に納得でき、しかもまったく土着的ではないリズムとメロディに完璧に乗っている。「日本語のロック」という問題には横山剣以前に吾妻光良がとどめを刺していた! 腰が低く気配りの利いたMCといい吾妻の日本語のセンス最高。とにかく親指を「バッチグー」と立てつつ叫び踊りながら、大満足で吉祥寺音楽祭は幕を下ろしたのだった。そりゃ無料コンサートとはいえカンパもしますわな。帰りに本屋に寄ったら踊りすぎて階段を下りる足がガクガクしてた。あーーー面白かった!