月の上にも30年

Vintage Moon Festival
2006年4月30日 日比谷野外音楽堂
出演:ムーンライダーズ with Guests
現存する日本最古のロックバンド・ムーンライダーズの30周年「前半」の締めとなるライヴが日比谷野音で行われた。「with Guests」と簡単に記したが、その中にはみうらじゅん青山陽一サエキけんぞうカーネーション野宮真貴ポカスカジャン曽我部恵一原田知世あがた森魚遠藤賢司PANTA高橋幸宏という超豪華な顔触れが並ぶ。これらのゲストたちがハウスバンドとしてのライダーズとともに、ゆかりの曲を歌うという「ラストワルツ」形式だ。その個々の曲目などはすでに詳細なレポートがいくつもネットに寄せられているので言及はしない。とはいうもののいくつか印象深い場面を上げるなら、

  • 「BTOF」で味のある歌とデイヴ・メイスンばりの渋いギターを披露した青山陽一
  • 博文コーナーで加わった直枝・太田のカーネーション組の安定感。
  • 「MY NAME IS JACK」を歌う野宮真貴のキュートな嵌まり具合。
  • テレビでは受けない音楽ネタをここぞと前面に出すポカスカジャン。「津軽ボサ」の津軽弁下ネタは、翻訳なしに伝わる北海道人には悶絶モノ。
  • 原田知世の妖精のような可愛らしさ。慶一作「空から降ってきた卵色のバカンス」を収録した 『Egg Shell』購入しよう。
  • 凄すぎて何が何だかわからないエンケンの通好みロック。客席を移動するエンケンをフォローするスタッフのケーブル捌きに瞠目。

などなど枚挙に暇が無い。
そんな客演のなかでも特筆すべきは、「スカンピン」をギター1本で歌った曽我部恵一の存在感だ。大いに受けを取ったポカスカジャンの後という状況もあるが、はちみつぱいに共感を示しつつもムーンライダーズにはやや批判的であった曽我部の登場は、会場に微妙な緊張感をもたらしたように思う。だがそんな観客たちも、曽我部のまっすぐに突き抜ける歌声と、迷いなく深いギターの響きの圧倒的な説得力の前に息を飲んだ。私はサニーデイ・サービスの熱心なファンではなかったし、曽我部の動向にも疎かったのだが、いつの間にこんな凄い歌手になっていたのかと驚いた。今回の最大の収穫だ。
もちろん、ライダーズとの最も古く深い繋がりを体現するあがた森魚の歌も、祝いと感謝に満ちた言葉も最高だったし、パンタが歌声を重ねる「くれない埠頭」からは自由と孤独を含んだ湾岸の潮風が肌に感じられた(できればパンタ&HALの楽曲をライダーズの演奏で聴いてみたかった)。高橋幸宏との共演がビートニクス曲でないのは意外だったが、「9月の海はクラゲの海」という選曲はいかにも優しくて骨のない男たちに相応しい。
そんなゲスト陣を迎えるホストであるムーンライダーズの演奏だが、低音過剰のPAバランスが細かいニュアンスを潰して、先日のロフト同様ラフなロックバンド然とはしていたが、それでも野音という器なりのスケールを感じさせるものにはなっていた。ロフトと野音という異なった舞台の状況が、ライダーズ30年の歴史をそれぞれの断面で切り取ってみせる。職人集団と揶揄されるライダーズの、バンド性を強く感じるのはこういう時だ。また、ことあるごとに英国的と形容されるバンドの底に潜むソウルネスも今回改めて認識させられた。特に「大寒街」や「くれない埠頭」などの博文ナンバーにそれは顕著で、洗練よりも泥臭さを感じさせるそのノリには「パブロックとしての湾岸サウンド」なんて形容を与えたくなる(ベーシストとして小器用なスタイルを捨てたこととも無縁ではないだろう)。
ラストは会場、ゲストが一体となって「Don't Trust Anyone Over 30」で盛り上がる(幸宏・かしぶち・坂田学のトリプルドラム!)。30→40→50→60と、不信の対象年代をカウントアップしていく様相は、自己否定を芸風として取り込んだバンドの懲りない未来を宣言するものだった、かもしれない。そしてさらなるアンコールを待望する観客の期待をいなすかのように、「本日の公演はすべて終了しました。みなさんポクポクおうちへ帰りましょう」というアンチクライマックスなナレーションでオチが。そんなわけで軽くオフ会とかカラオケとか経てポクポク帰りました。高円寺あたりで乗車客がケンカして電車が動かなくなったりしたけど。もっとポクポクしようよ。