音楽夢くらぶ

NHKの音楽番組『音楽夢くらぶ』に薬師丸ひろ子とHISが出演。組み合わせの意図はともかく、両者の共演を期待したが外れた。実際には収録も別々だったのだろう。
最初に登場した薬師丸のバックには、生のバンドと弦が付く豪華さ。その佇まいといい、ヴォーカルに比べ演奏が遠くに聞こえるバランスといい、久しぶりに「歌謡曲の歌伴」を聴いたという感触。それにしてもやたら饒舌なドラムうぜー、とか思ってたらポンタかよ。他のメンバーも美久月千晴b、今剛g、そして井上鑑kbという強力さ。その割に印象に残らないのは正しい脇役の在り方ともいえるが、主役である薬師丸の歌の存在感が圧倒していたこともあるだろう。とりわけ『探偵物語』『WOMAN(Wの悲劇)』が素晴らしい。オリジナル編曲者の井上鑑が加わっていたのも価値を高める。透明な歌声という形容は陳腐だが、薬師丸の歌はその驚くべき自意識の希薄さにおいて、まさに「透明な歌声」と呼ぶにふさわしい。シナリオとしての楽曲の意図以上のものを加えない正統的な「女優の歌唱」は、例えば松本隆のようなタイプのクリエイターには得難い存在ではなかったか。アーティスト志向からの自発的な歌手活動ではなく、良い意味で「歌わされている」女優兼歌手というポジションは、角川映画というプログラムピクチャーがあればこそ成立しえたのかもしれない。
続いて、昨年NHKラジオ放送80周年企画の楽曲提供で14年ぶりに復活したものの、その後音沙汰のなかった細野晴臣忌野清志郎坂本冬美によるユニット「HIS」の突然の登場(思えばNHKは妙に細野関係に濃いメディアであった)。その魅力は、何といっても清志郎坂本冬美という希有の歌手の表現力にある。薬師丸の透明な歌声とは対照的に、何を歌っても自らの様式、色合いに染め上げてみせる力技は、しかし決して押しつけがましくはなく、日本語の歌の豊潤な世界に聴くものを誘う説得力がある。「パープルヘイズ音頭」の諧謔と批評、「500マイル」の溢れ出る感情、そして「幸せハッピー」の多幸感。いずれもこのユニットならではの歌の世界だ。浜口茂外也per、徳武弘文eg、高野寛ag、コシミハルacdのサポートも的確で、特に「500マイル」でスライドギターとアコーディオンの作るアンビエンスは、清志郎が表現する荒涼とした孤独な歌の世界を広げてみせた。もちろん忘れちゃいけない細野のフェンダーベースは絶妙に歌に寄り添って、控えめに間の手を入れつつ和と洋、歌謡とロックを結びつけた無二の音楽世界をまとめ上げていたのだった。真っ白なステージの上に日の丸を描き、さらに桜吹雪を舞わせる演出も、ベタではあるが実にHISの音楽を理解していた。