岩原裕二『いばらの王』6巻(エンターブレイン)

コミックビーム』誌ですでに最終回を読み、その結末に拍子抜けした思いだったので、この最終巻を買うかどうか迷った。で、結局購入し読み終えてみて、これはこれでうまく風呂敷を畳んだのだと思い直した。
というのも全巻を通して、主人公のカスミがコールドスリープから目覚めて以後の物語内時間は、せいぜい3日ほどしか進んでいないのがわかるからだ。地球的規模の大災厄を壮大なスケールで描いた長編のように見えて、実は怪物が跋扈する古城からの脱出を描く3日間のドラマであれば、人類の危機が一個人の内面の危機に収束するような結末も、短編の結構としては納得できる。トリッキーなラストが当初からの構想か途中での思いつきなのか判らないが、少なくとも初期の伏線は(後付けだったとしても)きれいに回収されている。むしろ本作は、数日間の出来事のディテールを全6巻に拡大して描き出した、岩原裕二の画力と語りのテクニックを堪能するための作品と考えたほうがいい。その意味ではこれから単行本でまとめ読みする読者のほうが、見かけ上のスケールに幻惑されずに作者と編集部の目指した「B級」「古城脱出活劇」として楽しむことができるのではないか。
とはいえ3年間リアルタイムで付き合った読者としては、その分量と描写力に見合わない内容の軽さに肩透かしを喰らった感も否めない。また、作品内時間が3日程度しか経過していないにもかかわらず、キャラクターの内面や人間関係が連載期間の3年分の深化を遂げているのも違和感を生んでいる。次回作ではもっと開放感のある冒険ものを、単行本3巻ほどの分量で期待したい。