「近日真打」

「近日真打」
2005年9月16日 新宿末広亭
出演:柳家三三五街道喜助
最近落語に傾倒しているmftさんに誘われ、山下スキルさんと三人で寄席へ。出し物は二ツ目柳家三三五街道喜助の二人による「近日真打」なる定例会。若い二人が真打ちを目指して銘打った「近日真打」も、二人とも本当に昇進が決まって今回が最終回という。
と、上のような事情を述べた冒頭の口上がまず気持ちがいい。客へのもてなしと馴れ合い、両者の親密さ、洒落に紛らす決意表明などが簡潔な言葉に表現される。いま最も正しい日本語が使えるのは落語家なのではないか。
先に高座に上がるのは柳家三三、演目は「大工調べ」。店賃のカタに商売道具を取られた大工の与太郎が、棟梁から助言を受けて大家と交渉するも言葉の不如意で大騒動に。後の五街道喜助は「子別れ〜子は鎹」。酒癖の悪さで妻子と別れた大工が前非を悔い、息子との再会を機にめでたく復縁する。両者とも現代性を求めて枕のほうが長くなるようなタイプではなく、若さでもあるのだろう、いかにもな江戸の庶民の生活感や心の機微を丁寧に再現してみせる。いかにも現代の若者が羽織りを着て咄家になり切ろうとするような三三の固さに比べると、喜助のほうが「咄家スーツ」を着慣れている感じ。演目の力でもあろうが、結構な長丁場をそれと感じさせない達者さで、演者の存在もいつしか忘れて感情移入、定型の人情話にすっかり笑わされ泣かされた。周知の内容より演者の芸が鑑賞の対象となる古典ではあるが、ものを知らない強みで新作同様に楽しむことができたのも大きい。例のドラマも見てないし。
受け継がれてきた芸という型、物語の普遍性、昇進制度の評価システムの信頼性などが「近日真打」の若手ですら明確に伝わる。落語てえのは大したもんだなあと改めて感心した。
夕食は飲み屋で適当に。腹の膨れるものをとキノコのペペロンチーノを頼んだら、キノコしか入ってない器を見て愕然。パスタと勘違いする客のために店員が説明していたらしいのを聞き流していた。こちらもとんだ与太郎で。