『リンダリンダリンダ』(山下敦弘監督)

学園祭でトリを飾るはずだった女子高生バンドのギターが指を負傷。代役問題を巡る対立でヴォーカルが離脱、危機に立たされた残り3人のメンバーは、韓国からの留学生をヴォーカルに抜擢しブルーハーツリンダリンダ」を演奏しようと練習を開始する。
最後の学園祭、友情、恋、障害とその克服、クライマックスで奏でられるブルーハーツ。シンプルな物語のなかには、それだけで感動を引き起こす道具立てがたっぷりと含まれている。それだけに山下監督の演出は、あからさまな泣かせに陥らないように過剰なドラマ性を慎重に排し(ジェイムス・イハの音数少なく淡い音楽もそこに貢献している)、その代わりに1ヶ月という長い撮影期間に醸成された、主役4人の間に流れる空気感を丁寧にフィルムに写し取っていく。留学生のぺ・ドゥナと3人との微妙な違和感も、キーボードから急遽ギターに持ち替えた(という設定の)香椎由宇の演奏の拙さも、映画のリアリティを高める要素として折り込んでいるのだろう。
ただしそうやって収められた空気はやはり1ヶ月ぶんの濃密さではあって、物語内時間の4日間というスケールは実感しにくい。1ヶ月(あるいはそれ以上)かけた演奏技術の上達も、4日間に圧縮されることによってファンタジックな飛躍になっている。ファンタジックといえば香椎由宇の太い筆で描いたような美貌と、骨折したギタリスト役の湯川潮音がクライマックス直前に歌う、その圧倒的な歌唱力と渋い選曲は(「THE WATER IS WIDE」に「風来坊」*1)この淡彩の青春映画におけるリアリティの設定水準からは大幅に逸脱した印象を与える。もっともそれがハイライトにもなっているのだが。逆にバンド内での役割そのままに周囲に溶け込もうとする前田亜季は、演技の自然さが地味さに繋がって割を食った感もあるが、そこに女優のプロ意識を感じさせた。寡黙なベーシストを演じる関根史織といい(実際にミュージシャンである彼女が、自然にバンマス的な役割を担っていたりするなど)、キャスティングが絶妙で、主役4人を選んだ時点で映画は半ば成功していたのだろう。クライマックスの「リンダリンダ」の演奏は、湯川潮音の歌を聴かされた後で大丈夫なのかと思ったが、ぺ・ドゥナの日本語による歌をはじめ、その熱演には映画を支えるに足るハレの爆発力があって、卑怯だと思いつつも昂揚してしまう。江口寿史『GO AHEAD!!』や、くらもちふさこ「蘭丸団シリーズ」といった古いバンド漫画を思い出したりもしたが、映画のネタもブルーハーツだのユニコーンだのラモーンズだの、果てははっぴいえんどだから強ち外れでもないか。
女子高生とブルーハーツという取り合わせや、ノスタルジーを刺激する筋立てにはあざとさを感じないでもないけれど、そのあざとさを温度の低い演出でカバーした『リンダリンダリンダ』は青春音楽ものとして品良くまとまっていて、その薄味がかえってもう一度観たいと思わせた。

*1:監督側の提示した楽曲ではなく、歌手として自らが歌いたいものを選んだという。