米澤穂信『さよなら妖精』(東京創元社)

近世の街並を残す地方都市で暮らす高校生の「おれ」たちのもとにやってきた異国の少女・マーヤ。ありふれた日常の中に新鮮な謎を見い出していく彼女の存在に、何事にも本気になれない「おれ」の心は動かされていく。そしてマーヤが去った後、彼女の残した最大の謎に「おれ」たちは立ち向かう。
現場から離れて限られた情報から真実に迫るしかない安楽椅子探偵の限界が、「現実」に手の届かない「子供」の無力感に通じているあたり、ミステリという形式ならではの青春小説といえるのだろう。主人公をはじめとする若者たちの、今時でない観念的で潔癖な人物像や言動はやや気恥ずかしいが、それこそ旧制高校的な青春を気恥ずかしいままに描くことができるのも、学園ミステリやライトノベルの利点かもしれない(「今時のリアル」を求めるとJ文学になる。それはそれで恥ずかしい)。このシニカルに切り捨て難い清冽さ、さらに論理展開の地味さに惹かれて、他の作品も読んでみたくなった。