魂のゆくえ

NHK-FM『ウィークエンド・サンシャイン』でピーター・バラカンが、「世界で最も嫌いな人間」のiPodに、最愛のヴァン・モリソンの曲が入っているのを知り大いに落胆したという話をしていた。*1御愁傷様としか言いようがないが、文化的な趣味と愛好者の人間性ないし政治信条とは必ずしも一致しないものだろう。私だって文化的に洗練された下衆には心当たりがある。
GIL SCOTT-HERON,BRIAN JACKSON/BRIDGES('77)を昨日中古で買って聴いているのだが、英語の歌詞も対訳もミュージシャンのクレジットもない。クラブ・ミュージックからの再評価が背景にあるのだろう94年の再発盤には、本根誠氏によるライナーノーツが付いている。

聞き手の僕たちが今、スコット・ヘロンの音を通して聞くべきなのは、その社会的なメッセージよりも、ブルーズ音楽は、良い意味でも悪い意味においても、決してなくならないと云う本質的なメッセージ、この一点に尽きると思う。

このライナーは上記の主張通り「社会的なメッセージ」の内容を理解するうえで何の役にも立たない。ネタ元になるべくしてなったジャズファンク的なサウンドの壮絶な格好良さは、それこそ解説不要で誰が聴いても判ることだ。これも作品が属した文脈から切り離して形態のみを問う、90年代的な(ブッシュ的な?・笑)音楽評価なのかもしれない。
もっとも現在では、ギル・スコット・ヘロン本人による解説や参加ミュージシャン一覧、一部の歌詞を彼のサイトで読むことができる(こうなると「解説」の価値とは何だろう)。収録曲"WE ALMOST LOST DETROIT"が、デトロイト近郊にあるエンリコ・フェルミ原発の1966年のメルトダウン事故について歌ったものであることも、サイトに載せられている歌詞を辿って知った(デトロイトを失いかけたんだ!)。全曲の歌詞が上げられているわけではないので、ヒヤリング能力に自信のない身としては、スコット・ヘロンの詩集を原書で当たるしかないのだろうか。まともな歌詞と対訳が付いたリマスター盤が出ればいいのに。