橋本治『蝶のゆくえ』(集英社)

図書館から「予約が入ったので早く返せ」との催促が来たので、4日延滞している本を慌てて読み終えた。
幼い両親に虐待され殺される幼児、「もう若くない」26歳OLの逡巡、定年直後の夫を若者たちに暴行殺害された妻、ポストバブル時代の元業界人と旧知識階級の空虚など、いくつかの人生の断章が収められている。それらの人物像はステロタイプかもしれないが、類型を極めて普遍に至ったような説得力があり、こういうものは余人には書けないだろうとも思う。ただ小説としては違和感を否めない。「若い男/若い女とはこういうものだ」というような直感的な見切りにかけて作者は抜きん出ているが、その見切りのみで完結していて、人物のプロファイルと物語の梗概を読まされているように思えてしまう。90年代以降の橋本治の小説につきまとう、読者の誤読を許さないこの明晰さは、小説というより評論のものではないか。今の橋本治は小説家であるにはものが見え過ぎるのかもしれない。