イニシャルトーク

日暮れに本を抱えてドトールの地下に降りると、年輩の男たちが8人ほど集まって賑やかに談笑している。背広にネクタイ総白髪のおやじ連中が、飲み屋ではなく喫茶店、しかも禁煙席の狭い一角を占領している光景の異様さに、つい話の内容に耳をそばだてる。同窓生の集まりらしく、昭和14年生まれというから60代も半ばを過ぎているのか。しかしその割には話がくだらない。
「こういう世界は一つの繋がりですからな、参加しないといかんよ」
「次回は女性が参加しますから」
「何人?」
「3人」
「(数が)合わねぇじゃねぇか」(合コンかよ!)
「あんたが御執心のあの人がきますよ」
「……Nさんとか」
「Tさんとかね」
「うははははは」
……60過ぎのじじいが(同年代だろう)女性をめぐるイニシャルトーク。年齢相応の社会的立場を離れた場所には、永遠の中学男が保存されているのだろう。彼らは店内のどの若者よりも活力を漲らせていた。傍迷惑ではあったが。自分も数十年後に誰かと馬鹿話を交わせたらいい、と思ったり思わなかったり。