濱田マリ『フツーの人』(95年)

ブックオフにて250円で購入。モダンチョキチョキズ解体期に発表された初のソロアルバム。したがってモダチョキ関係者は河村光司が編曲で参加するのみだが、代わりに集められたメンバーがとんでもない。ソフトバレエかの香織菊地成孔奥田民生ヒックスヴィル・遠藤京子・ECDゴスペラーズ森俊之スカパラ………豪華と言えば豪華だが、何の統一感もない顔ぶれではある。にも関わらず、これらのバラバラの個性は濱田マリという大きな器に収容され、奇跡的に普遍性のあるポップアルバムとして成立しているのだ。思えば独立した才能の寄合い所帯だったモダンチョキチョキズを、曲がりなりにも音楽集団として組織していたのは、リーダーの矢倉邦晃以上にフロントマン濱田マリの存在ではなかったか。どんな曲もサウンドも歌いこなす原器のような歌唱力、演技力は、楽曲の意図を完全に生かし切ってみせ、彼女の歌手としての魅力を再認識させる。ゲストではソフトバレエ藤井麻輝森岡賢の仕事が光っており、エッジは抑え気味に華やかなエレポップに仕上げる手腕に、スルーしていたソフトバレエの作品を聴いてみたくなる。関西インディーズ人脈では唯一参加した加藤美郁・西村睦美・Bikke(ラブジョイ)が、モダチョキ長谷部信子にも通じるファンタジーを提供しており、彼女らをソングライターに加えた「かくもありえたモダチョキ」の姿が想像できる。ECDのバックトラックがまた格好良いのよ……と、この調子で書いていけばキリがない。だがしかし、本作の普遍性を支えているのは、こうした才能の中に挿まれた濱田マリ自身の詞曲にも見られる「凡庸とは違う」フツーさ真っ当さではないかと思う。「produced by 濱田マリ」のクレジットは伊達ではないのだ。「フツーの人」濱田マリの「フツーでないフツーの歌」を今こそ聴きたい。