弦と月

不思議な空だった。強い風に流されて長く尾を曳いた二筋の雲のわずか上に、煌々と輝く円い月が浮かぶ。街灯りに星影は掻き消され、曖昧なターコイズブルーの夜幕には、二本の弦と釣り合った月輪があるばかり。偶然の均衡がもたらした美観は、一時間ほど経て再度空を見上げた時には消え失せて、薄く広がる雲を下方に斥けて月が曇りない顔を向けていた。