グレッグ・イーガン『万物理論』(創元SF文庫)読了

作品の核となる奇想が明らかになってからは一気に読み進めることができた。そのくらいには当然面白かったのだけれど、うーん微妙だ。テクノロジーによる人間の内面や社会の変貌の描写はイーガンの独擅場だが、本作で科学技術が可能にするものは、文化的生物的な性を超越した「汎性」にしろ、国家の軛から逃れたアナキストの共同体「ステートレス」にしろ、60年代後半〜70年代前半くらいの思想を思わせる。それがいけないわけではないが(とりわけ今ではこの米西海岸的リベラリズムは貴重だが)、内宇宙=外宇宙的な発想といい、万物理論がもたらすヴィジョンの超越性といい、「新しいSF」を読んだという感触はない。むしろ王道SFの最新アップデート版という読後感だ。読んでいる間はとても面白かったけれど、短編ほどの切実さは感じなかった。