ラジ『Love Heart』(78年)

三鷹パレードにて315円。このレコードを買って店を出るところで、偶然正面でレコードを探っていたhttp://www.noiznoiznoiz.comのjunneさんに声をかけられて激しく動揺する。別に悪いことはしていないのだが(笑)。失礼しましたー。
さて本作は、高橋幸宏サディスティックスのバックアップでソロデビューした女性歌手・ラジの2ndアルバム。名義はコ・プロデュースとなっているが、実際のサウンドプロデュースは高橋ユキヒロ(当時)と坂本龍一が担当している。実は長年探していたので、エサ箱で出会えてとても嬉しかった。
バッキングを勤めるのは出発したばかりのYMOに加えて後藤次利松原正樹浜口茂外也らの精鋭。編曲を主導するのは坂本龍一だが、これが今聴くとダサいのに驚く。大仰な管弦、過剰なキメ、そしてシンセサイザーのフレーズや音色の酷さ。アレンジャーとしての教授は全面的に信頼していたのだけれど、これは失敗の部類ではあるまいか。表題曲「ラヴ・ハート」(HeartではなくHurtなのが憎いところ)後奏部分、細野晴臣のベースが縦横無尽に歌い始めたところでフェイドアウトし、教授のキラキラしたシンセが全面に出てくるというのは許しがたい(笑)。教授・幸宏・次利らによる歌謡曲的な曲調が、過剰な編曲によって強調されてしまっている。
したがって「名盤」とは言えない本作だが、最大の価値は名曲「ジャスト・イン・ザ・レイン」がアルバム最後に収められていることだ。幸宏の詞曲は都会の恋愛劇を抑制したロマンティシズムをもって描き出し、ラジの透明で冷たく美しい声はこの曲で最大に生かされている。教授のストリングスはようやく本来のクールな情景描写力を発揮、松原正樹のギターソロも雨の街のように濡れて光る。何より特筆すべきは細野・幸宏の表情豊かなリズム体の演奏だ。ここで素晴らしいコーラスを加えている山下達郎は、当時のラジオ番組の「ベース&ドラム特集」でこの曲を紹介し「日本で最高のリズムセクション」と評している。このラジオを聴いて以来心の隅で繰り返し再生されてきたメロディとの、20数年を経ての再会となった。長く音楽を聴いているとこういうこともある。
 街は二人のRhythm いつでも奏でてるMelody
 今夜 巡り逢える…  (ジャスト・イン・ザ・レイン)