始まりはブックオフ。

函館から帰還して数日後、ブックオフにて今年初のCDまとめ買い。


菅野よう子feat.坂本真綾『23時の音楽』(02年)750円
NHKの23時枠のドラマ『真夜中は別の顔』のサントラに坂本真綾の歌を加えた一種の企画盤か。声優としての坂本真綾に対する評価に「良い棒」というのがあって、つまり(通常は罵倒語としての)棒読みがナチュラルあるいはクールな演技力として捉えられているのだけれど、歌手としての彼女にも同様のことが当て嵌まる。高品質だがどこか貌のない菅野よう子の音楽に、英語で歌う坂本の無個性な(よく言えば「透明感のある」)ヴォーカルが、架空の洋楽としてのリアリティを与えているのだ。ちなみに声優坂本真綾は好きです。
山本耀司『さぁ、行かなきゃ』(91年)250円
かの山本耀司が歌手として発表したアルバム。高橋信之・幸宏兄弟やエンジニア田中信一との共同作業は、後のコンシピオ・レーベル設立の契機でもあったのだろうか。山本の自作に加え、現代詩に曲を付けて歌うというのは高田渡的な試みにも見えるが、実際高田渡の曲も取り上げられており、かつてのフォークに寄せる山本の純情が窺える。素朴で衒いのない歌声も悪くなく、作曲や演奏で支えるラストショウの面々や吉川忠英の貢献も大きい。
かの香織『裸であいましょう』(95年)250円
正直ショコラータで記憶が止まっていたのだが、本作はその演劇的・人工的なイメージからは遠く隔たる、自然体のシンガーソングライターの音楽になっている。ニューウェーヴから普通のポップスへという成り行きは「逆コシミハル」みたいな(なんじゃそりゃ)。コケティッシュな歌声に細海魚や仙波清彦菊地成孔にハラミドリといった曲者たちが加わって、しかも出来上がった音楽は普通に聞き流せたりするあたり、90年代のソニーだなあと思う。そういうメンバーに交じって鈴木茂の名前があるのがちょっと目を引く。
KYOZO & BUN『トラベリン・バンド』(91年)250円
今は亡き西岡恭蔵と、岡島善文が組んだユニットのアルバム。アメリカン・ロックに根差した爽快で溌剌とした、充実した歌と演奏が聴ける。西岡恭蔵の独特の男らしさを感じさせる歌と楽曲もいいし、高橋ゲタ夫や塩次伸二らの演奏や、大塚まさじ中川イサト有山じゅんじらの重ねる歌声も、スタジオミュージシャンではない「仲間」の連帯感があって暖かい。意外なのは清水一登の参加で、後にアルバムのプロデュースもしているらしい(もちろん演奏は至極まっとうです)。
BELA FLECK AND THE FLECKTONES/OUTBOUND('00) 1000円
アメリカのバンジョー奏者ベラ・フレックのグラミー賞受賞作。伝統的なブルーグラスのスタイルに始まり、ロックやファンク、インド音楽ホーメイなどの民族音楽の要素が加わった複雑な曲展開の上を、猛烈なテクニックとスピードで駆け抜けていく。東欧やケルト系のモダンなジャズ・ロックにも通じる味わいがあるが、あまりにもスムーズすぎてオルタナティヴ感に欠けるというか、日本公演はブルーノート東京かといったフュージョン臭も漂う(ヴィクター・ウッテンのバカテクベースのせいかも)。とはいえ、ジョン・メデスキにエイドリアン・ブリュー、ジョン・アンダーソンまで絡め取る包摂力はやはりただごとではないか。
PHOTEK/FORM & FUNCTION('94) 550円
ドラムンベースという最低限の様式とダンスミュージックの機能を維持しながら、音の抜き差しと音色の選択によって風景を変えていくセンスが秀逸。最初はあまりにストイック過ぎて途中で早送りしたくなったりしたけど、聴き続けるうちに連続する白黒のパターンのなかから錯視のように豊かな色彩感が浮き上がってくる。時折出てくるでたらめな日本趣味がカンフーディスコの伝統を受け継ぐとかいうと怒られそう(誰に?)。
DAGMAR KRAUSE/SUPPLY & DEMAND('86) 1000円
ブレヒト/ワイル/アイスラーの歌劇曲をダグマー・クラウゼが歌う。ブレヒトの戯曲を読んだこともなければ舞台を観たこともないので偉そうなことは言えないが、かの左翼・ヘンリーカウの一派がその影響を受けていないはずはないのだろう。実際本作に収められた歌を聴いていると、否応なくカウやアート・ベアーズの音楽の源流がここにあることを意識させられるのだけれど、それは楽曲の佇まいという以上のことではない。むしろ殊更に前衛を気取ることのない普遍的なポップ・ソングのかたちが、母国語で歌うダグマーの喜びとともにくっきりと浮かび上がってくる。今回買ったCDのなかでいちばん楽しく聴いたのはこのアルバムだった。


細野王冠箱とか山本コウタロー『卒業記念』(72年)の復刻版も買ったのだけど、その感想は後で。