ロックから遠く離れて

SAKANA 2days(2nd)
2006年12月18日 吉祥寺MANDA-LA2
出演:pocopen(vo,g)/西脇一弘(g) guest:菅沼雄太(ds)
id:maschine氏に誘われ、観るつもりのなかったSAKANAの2日連続ライヴの2日目に出かける。平日のためか彼らのライヴにしては客入れに余裕のあるほうで、当日券だというのに奇跡のようにステージに近い席を得ることができた(後のMCでpocopenは「今日はもういっぱいで入れないらしいよ、なんてデマを流したやつがいる! SAKANAに恨みでもあるのかー!」てなことを例の調子で言ってたが……)。3人組だったSAKANAからドラムのPOP鈴木が脱退して以来、彼らのライヴからもアルバムからも遠ざかって久しかったので、現在の音楽性がどう変化したのかあるいは変わっていないのか、新鮮な興味をもって臨むことになった。
まず、無人のドラムセットを挟んで左にpocopen、右に西脇がステージに立つ。pocopenの強力なピッキングが確かなリズムを刻み、その合間に西脇の繊細なギターが音の糸を張り巡らせていく。ベースレスの編成を低音弦でカバーするpocopenのギタースタイルに加え、pocopenの足元にマイクを置き足踏みを拾うことで(靴底に金属板を貼っているのか)パーカッションの役割さえ満たしている。2人という最小編成ゆえの工夫だが、他に何の要素も必要ないのではと思わされるほど、その構成の密度、完成度は高い。
ただ、そこには以前と同じように高い緊張が漲っているのだが、時に息をつめて聴かなければいけないようなシリアスな空気とは少し違ってきている。弛緩というのではなく、どこか許しあった対話のゆとりが感じられるのだ。その音楽性も、一時期のルーツ・ロック的なものからボサやジャズ、ラテンの感覚を漂わせるものに変化を遂げている。その非白人音楽的なふくよかな響きが、pocopenの乾いていながら人懐っこい声で歌われる、告発でも叙情でもなく、どこでもない場所の誰かにまつわるバラッドの世界観を、とても効果的に広げているのだ。思えばPOP鈴木は大変にタイトで鋭い音を持つ優れたロック・ドラマーだったが、その存在がSAKANAをしてがちがちのルーツ・ロック・トリオに規定していたのだと今では言えなくもない。ドラマー脱退というアクシデントは、同時に「ロック」の枠組みからの解放となって、かえって音楽の自由度を高めたのではないか。その印象はゲストドラマーの菅沼雄太が加わっても変わらない。エゴラッピンやtuki no waで活躍する菅沼の、通常のスティックよりブラシやマレットを中心にした繊細なプレイは、2人が奏でていたボサ、ジャズ、ラテンのフィールをより色濃く縁取ってみせた。
アンコールで演じられた数曲のスウィンギ―なノリの良さには、よりポピュラーな世界への可能性さえ感じさせられたのだが、SAKANAの2人はきっとこれからも吉祥寺の小さなライヴハウスにとどまり続けるのだろう。ここに来れば「どこにもないけどどこかにある世界」に通ずるドアはいつでも開かれているのだと示しながら。