AIR/孫の手を君に

先日書いた細野晴臣アンビエント・ドライヴァー』(今「アンビエント・ラヴァーズ」と書きそうになった)の感想は、感想にかこつけたウェブ論でもあったりしたのだけれど、ごく一部で読まれているようで、しかも真意が伝わってないらしい。なので、ちょっと思うところを書いておく。ひとに送ったメールからの転載なので、ざっくばらんです。

ブログツールってコメントとかリファとかトラバとか、
繋がることに最適化されてる。コミュニケーションの量が可視化されることで
その量が見えない=反応がないことに苦しむ人がいるわけです。

こういう状況はSBS、というか「はてなブックマーク」によって加速されました。
かつてのREAD ME! とか日記才人とかの人気投票システムは、
そのサービスに登録してない人には無関係だった。
ブログの「ブログランキング」というのも同じです。
ところが人気投票システムとしてのはてブというのは
ウェブ上のあらゆるコンテンツが対象となるわけで、
もはや誰もランキングの世界から逃れられなくなった。
しかもブックマーク数という形で自分の価値が数値化される(ように見える)。
現実競争社会からの逃げ場としてウェブに来たはずが
より加速されたハイパー競争社会に参加させられている、
このプレッシャーはかなりでかいわけですよ。
はてなサービスを利用しているとより体感できる)
実際、はてブ受けを狙って攻撃的なエントリを書いて注目を集めたのが
やがて誰もブックマークしなくなり、自分の無価値さに傷つく人がいたりする。
それはあんまり殺伐としすぎじゃないかと。
(いわゆるモヒカン族の人は「殺伐で何が悪い」と言うわけですが)

反応があることが自明とされる世界では、自分の存在を消さないために
必死で反応を求めようとして禁断症状に陥る。
そういうんじゃなくて、船便が3ヶ月後に届くのを楽しみにするような
そういうスローペースの楽しみ方があってもいいじゃないか。
実際、3年前の記事を誰かがブックマークしてにわかに注目される、
そういうことだってツールの可能性としてあるわけです。
超音速の戦いだけだと疲れるから、もっとぬるくてもいいじゃないか。
そういうことがあのエントリでは言いたかったんですが、真意が伝わってないですね。

で、引用した風野さんの論の

直接感想メールが来たりすると、かすかな苛立ちを感じずにはいられないような、そんな「コミュニケーション」。
http://homepage3.nifty.com/kazano/200305c.html#29

の部分が「オレのつぶやきを黙って聞け、何も言うな」という意味に取られたらしいのだけれど。

それはただのマッチョじゃないですか。そういう話では全然なくて。
「頼むから何か言ってくれ、おれの存在を認めてくれ」
という中毒者が多すぎて痛々しいよ?もっとゆるく行こうよという話です。


実は私もよくわからない(笑)ここの部分は。
わからないなりに想像すると、
「原理的に世界中に発信されているのは知っていたが
まさか本当に反応があるとは思わなかった」くらいの無自覚さ、ゆるさが
初期のインターネットにはあった、ということかと思うんですけどね。
「おれの話を聴け、反論は許さん」じゃなくて
「うわ本当に聴いてる人いるよ」という戸惑い(笑)
さすがにここまで能天気な言い草はもう通用しないでしょうけど
それでもこの風野春樹さんのウェブ論には、今でも参照しうる価値があると思います。

まあざっくり言ってこんな話。
このぬるさなら言える(笑)例の「水伝」と電力線通信の話もついでに。
http://b.hatena.ne.jp/entry/http://www.gakushuin.ac.jp/~881791/fs/
http://b.hatena.ne.jp/t/水伝?sort=hot(※リンクされないのでコピペしてください)
http://b.hatena.ne.jp/entry/http://www.sv15.com/net/plc/hdplc2.htm
私はSFファンの端くれなので、菊池誠さんのブログ野尻抱介さんの掲示板をときどき覗いていて、この話題がかなり以前から深く長く論議されている、むしろほとんどループ気味だったりすることは知っていて、世間はともかくウェブ上では周知の問題だと思っていた。なので、上の田崎さんの警告というかマニフェストも「満を持して」あるいは「いよいよ猶予なく」というのもさることながら「なぜ今頃」という感もあったわけです。
ところが、実際に発表されてみるとこの反響の大きさに「全然周知されてなかったんじゃん!」と驚いた。ウェブが蛸壺あるいは島宇宙の集まりだというのは承知していたつもりが、改めて思い知った。この話ってそれこそSFファンの一部(それもハードSFで理系の人)しか知らなかったんじゃないか、と。
それがはてブに上がったことによって初めて「ブロゴスフィア」に浸透し、これまでの議論の積み重ねを知らないいわば「過去ログを読まない」(サイドバーの関連リンク集すら参照しない)エントリ単位で反射的に反応する人が気軽に意見を述べられるようになった。それだけでも田崎さんが件の一文を寄せた意味はあるし、ブログやソーシャルブックマークにもツールとしての大きな役割があると思っているわけです。

そうは思うわけですが(ここでしょっぱい自分語りに)。
私は自分ではブックマークに参加しないけれど、ホッテントリや注目のエントリ(3users)を延々と斜め読みしたり、気になるブックマーカーをローカルにブックマークして追ってたりした、いわゆるエアブクマーではあるんですが(誰も言ってない)、そういうことを続けてきてですね、

おれは あっち(ロンドン)で レポーターを やって…
遊びがてら 山ほど ミュージシャンに 会って…
それから 東京にもどって これまた 見てきたばかりの パンクコピーやら
やたらと しのぎを けずってる ミュージシャンの 群れに会って
もう


あきたんだ
森脇真末味『おんなのこ物語』)

そんな仲尾さん(上の台詞の主)みたいな心境になって、もうここから半ば降りようと。
1ヶ月に5日くらいしか更新しない感じになった。
それが最近また、どうでもいい献立や散歩の話を毎日書きたいと思えてきている。これは不思議なんだけど、たぶん自分の日記の価値を「家族への(友人知人への)迂遠な生存報告」くらいの見積もりに落とし込んだからだと思う。まあそんなものを読まされるほうも迷惑だと思いますが、袖擦り合うも多生の縁。せっかくキーワードから飛んできたのに作品名しか書いてなくて落胆するのもまたウェブの「情報の効率的な収集だけではない、ノイズを含んだ豊かさ」だと思っていただければ幸いです。*1そんな私ですがよろしくお願いします。何だこれ。

*1:むしろキーワードの誤爆おとなり日記で読みたくもない日記を読まされるのが、はてなで唯一面白いところだと思ってました。