名うてのBEES兄弟

Serise Live「怪しい隣人 Vol.10」
2006年6月10日 下北沢CLUB Que
出演:青山陽一&The BM'S(青山陽一vo,g/中原由貴ds/千ヶ崎学b/伊藤隆博key)
The SUZUKI鈴木慶一vo,g/鈴木博文vo.g)
ハミングキッチン(イシイモモコvo/眞中やすg,cho)


主催者の青山陽一が様々なゲストと共演を繰り広げる企画ライヴ「怪しい隣人」。その10回目は青山の師匠筋ともいえるムーンライダーズの文字通りの兄弟ユニット「The SUZUKI」との久々の顔合わせ。実はThe SUZUKIのライヴを観たことなかったので結構楽しみだった。誰か知り合いに会うかと思ったけど、誰もいなかったなあ。狭い会場がどれだけ混むのか少々不安だったけど、まあ体を動かす余裕はありました。


最初に登場したのは、湘南を拠点に活動する男女デュオ「ハミングキッチン」。どこかで聞いたことある名前だと思ったら、林立夫がドラムで参加したので覚えていたのだ(ちなみに林を加えてのユニット名は「システムキッチン」)。1曲目はザ・バンドの"Ain't No More Cane"で、共演者の鈴木慶一を意識し、はちみつぱいに捧げたという。この人たちはとにかく歌も演奏も抜群に上手い。イシイモモコのハスキーで暖かく伸びやかな声と、巧みなフィンガーピッキングでジャジーな雰囲気を醸す眞中やすのギターの組み合わせは、往年のジェフ&マリア・マルダーや、あるいは佐藤奈々子佐野元春のコンビを彷彿とさせる。その音楽の完成度は高いものの、二人だけで完結してしまっているようにも感じた。それが青山&The BM'Sの面々が演奏に加わると、シティ・ポップスとしての豊かな広がりが音楽に現れてくる。その演奏はザ・セクションか、わが日本のティンパンアレーかという熟練度。歌のバックに回った青山の渋いギターや、リングモジュレーターの効いたエレピの音は、70年代かと見まがう風格で、盤石のバンドを背にイシイの歌声も一層のスケールを感じさせた。


ゲストの間を繋ぐように青山バンド単独のステージが挟まれる。ハミングキッチンからの流れを受けてか青山は生ギターを奏でるが、その演奏の表情は先程示して見せたバックバンド然とした佇まいとは一変。強力にファンキーなリズムの上で、どこに流れていくのか展開の読めない不思議な歌メロが青山の抑揚の乏しい声で歌われると、そこに青山陽一独自の個性が立ち現れる。不思議な魅力としか言いようがないのがもどかしい。


青山がアコギをストラトに持ち替えて、立ちこめるスモークに色とりどりの照明が映えるなか、ドアーズばりにどろどろのサイケデリックな演奏が繰り広げられる。そこにギターを抱えた鈴木兄弟が登場。慶一・博文・青山の3本のギターが怪しく絡み合う様はバーズかCSN&Yか、はたまたデッドかバッファローか。その音楽性はまさに米西海岸サイケそのもので、The SUZUKIがライダーズの30年を飛び越えて、はちみつぱいと直結していることが明確に示された。こうしてひとつの音楽様式をまるごと引用してしまえるのも、ライダーズというバンド本体ではない気楽さゆえだろうか。慶一・博文とも声が良く出ていて、このサイケ大会を楽しんでいるのが伝わってくる。また2人のギタリストとしてのそれなりの実力も確認でき、特に慶一のギターワークにはバーズのロジャー・マッギンの影響が濃厚で、青山も眼鏡の奥で目を細めていた。青山の場合はサイケでも英国サイケのほうだと思うのだが、鈴木兄弟に合わせてアーシーでグルーミィなノリを表現しているのはさすがの対応力。ところでThe SUZUKIのアルバムタイトル『名うての毒針兄弟』というのは「名うてのビーズ(毒蜂)兄弟」という洒落なのだろうか。


最後は青山陽一& The BM'Sの単独ステージ。タイトなグルーヴを紡ぎ出す強力なリズム体、跳ねるエレピにうねりまくるオルガン、そして青山のブルージィだが情念を滾らせずにクールに疾走するギターが素晴らしい。大村憲司の衣鉢は案外この人が受け継いでいるのではないか。だが演奏能力だけを追及した音楽のつまらなさは、ここには微塵もない。ファンキーなグルーヴと予想不能の曲展開、意味不明な歌詞と不明瞭な発声とが渾然となって、青山陽一にしか表現しえない浮遊感を伴った独特の格好良さが現出しているのだ。アンコールではゲスト陣と共に"Eight Miles High"を演奏。最後まで余すところなくサイケデリックな夜であった。本当にここは21世紀の日本なのか。もっとも、今ここで演奏される音楽が最も新しいのは自明のことだろう。
立ちっぱなしで2時間半は辛いけど充実したライヴだった。The SUZUKIはライヴパフォーマンスとしてはムーンライダーズ30周年関連で一番良かったような気がする(それもどうかという話か)。そして青山陽一は本当に素晴らしいギタリストでありソングライターでありミュージシャンだと改めて思った(歌手としてもアジがあると思います)。鈴木アニや堀込アニが作詞で参加したという秋発売の新譜も期待。