Re-Make/Re-Model

「レコロケ vol.4」D-DAY/TIGHTS レコ発ライヴ
2006年5月13日 代々木Zher the ZOO
出演:捏造と贋作[久保田真吾vo/上野耕路 kb/ブラボー小松 g/松永孝義 b/杉野寿之 ds/秋山久美子 vo,kb/田澤麻美 tp/増井朗人 tb/矢島恵理子 b.sax/羽田祐子 dance]
川喜多美子(D-DAY)[渡邉博海(ハッカイ)g/光永巌 b/ライオンメリィkb/ハッチャキ ds]
ジャック達[一色進 vo,g/宙GGPキハラ g/福島幹夫 b/夏秋文尚 ds]
開場前の代々木のライヴハウスザーザズー、と読むらしい)の前には雨にもかかわらず長蛇の列ができていた。私はひとからCDをもらって気に入ったジャック達目当て。ライダーズ30周年イベントで観たシネマの再結成ライヴが鮮烈だったこともある。司会はファイターズのユニホームに身を包んだ野球DJ中嶋勇二。かつてタイツのメンバーでもあった中島と一色進の気心知れた掛け合いが、同窓会の親密さで会場を和ませる。だが、やがて始まった演奏は、懐古的な気分など入り込む余地のないほど鋭く熱かった。


最初に登場した捏造と贋作は、かつて8 1/2の同僚だった久保田真吾上野耕路が、近年活動を共にしているユニットだ。私は彼らの音をまったく聴いていなかったので、上野の奏でる現代音楽的なキーボードに久保田のパフォーマンスが乗るようなアート寄りの表現を予想していたのだが、それは完全に裏切られた。
まず編成が2人に加え、ブラス×3、kb&vo×1、g、ds+bに女性ダンサー1名という大編成。ギターはブラボー小松、私の位置からはベーシストが全く見えなかったのだが、何と松永孝義だった(演奏後に知った)。肌に入れ墨を施した久保田の与太者じみた激しい歌と動きと、ネクタイにスーツで髪をきっちり横分けにした上野の対照が体現するその音楽性は「パンク化されたクルト・ワイル」とでも形容すべき爆裂シアトリカル・ロック。激しい変拍子と歪んだギター、炸裂するグルーヴィなホーンに女声スキャット、そしてラウンジジャズ風味なピアノが渾然となった演奏は、いわゆるレコメン系アヴァンポップを思わせるが、より生々しく場末のキャバレーのいかがわしさが漂う。
その生々しさを支えるのは、「体が思うように動かねえんだよ!」と愚痴をこぼしながら激しく腰を振り叫び客を煽る久保田や、体をわずかに覆う衣装で肢体をくねらせるダンサーらの、コンセプトの作為性を凌ぐ身体性だ。そこにはかつてニューウェーヴが否定した「ロック」そのもののリアリティがあった。


次に登場したのは川喜多美子。かつて彼女が率いた伝説のバンドD-DAYの旧譜復刻を機に、十数年ぶりにステージに上がるという。バンドはオリジナルメンバーではなく、同時期に活動したNW勢の腕利きが支える。伝説の、などと言いながらこのバンドのことを全く知らなかったので、戸川純みたいな感じを想像していたが全然違った(またか!)。
ひょっとして私と同年代かそれ以上と思われる川喜多美子は、シックなグレーの鍔の広い帽子に、ドレープや刺繍で飾られた白いブラウス、黒のチェックのスカートにブーツといういでたちで、ウェーヴのかかった黒髪に縁取られた白い顔は大変に可愛らしく。そのか細く高い声と頼りない歌唱、恋や夢を歌う歌詞や甘く哀愁ある旋律が、いかにも80年代的なNWサウンドに乗って展開されると、そこにはまさにありえたかもしれないNWアイドル歌謡の姿があった。前日のレムスイムのライヴでスワンピーでアーシーな演奏を聴かせたライオンメリィ氏は、この日はシーケンサーを走らせながら白玉ストリングスでバックを付けていた(この変転ぶりがまたNW)。
中年となったかつてのファンたちも「よしこちゃーーーん!」と野太い声を盛んに投げかける。もし観客が現役のヲタだったら全曲跳んでますよ! 「よーーーしこっ、ヒュー! よーーーしこっ、ヒュー!」でPPPHですよ! この音楽がニューウェーヴの流れから出てきたという当時の衝撃は今となっては想像するしかないが、久しぶりのステージを精一杯の誠意をもって勤める川喜多の純粋さと、彼女を見守る観客の暖かさにほのぼのとした気持ちになった。


そしてトリを勤めるのは、かつて率いたタイツのアルバムが再発されたばかりの一色進率いるジャック達。そういえば一色氏も前日のMANDA-LA2で見かけたな。『MY BEAUTIFUL GIRL』の充実した内容を裏切らない、いやそれ以上のパフォーマンスだった。夏秋のタイトで疾走感のあるドラムと、福島のメロディアスなベースに乗って、一色の舌っ足らずな歌声が大人の中に生き続ける少年の心を伝える。キハラの長い泣きのギターソロも、爆音の中に豊かな情感を湛えていて、冗長さを微塵も感じさせない。2本のギターの絡みが小気味良い引き締まったブリティッシュサウンドは、ドラムがいて元気が良かった頃のXTCや、初期のキンクスザ・フーのような人懐っこさと勢いを感じさせる。
そんなバンドの演奏も素晴らしかったのだが、一色のMCが異常に面白い。毒舌の鋭さではなく、自嘲的ユーモアというのでもなく、いわば含羞に発するような言葉のセンスが人の良さを感じさせる。これはできればライヴで体験してほしい。客席の久保田との掛け合いも可笑しかったなあ。
さらにアンコールでは白ずくめに衣装替えして再登場した川喜多、元メトロファルス光永巌に加え、つい先日にもシネマで共演した松尾清憲鈴木さえ子が登場し、タイツの曲「ハロウィン」を演奏して終演。なんかものすごいお得感があったよ。


「意匠≧アティチュード」だったニューウェーヴが、その意匠を更新しつつ、意匠を超えて強靱なアティチュードを鍛え上げてきた現在の姿がここにある。時に磨かれてこそ得られる輝きを感じるライヴだった。各出演者のライヴにはまた足を運びたい。

なおこの「レコロケ」は、レコミュニが企画するライヴ音源配信を前提としたイベントで、この日の演奏も1曲100円でダウンロードできる。
http://recommuni.jp/recoloke/