ピアノとチェロと歌と

詩宵月
2005年11月16日 吉祥寺スターパインズカフェ
出演:URiTAこよ狩野良昭秋山羊子
秋山羊子さんと神谷きよみさんが共演されるライヴがあるというので吉祥寺へ。階段を降りると受付の女性の一人が知り合いらしいのだが、ぼんやりしていて一瞬誰だか。つーかよく見れば(よく見るまでもなく)秋山羊子さんその人ではないか。まさか出演者が自分で受付しているとは思わず、何やら妙なやりとりを交わしてしまった。ステージ前なのにすみませんでした。ああ情けなや。


「詩宵月」というのは店側の企画らしく、弾き語りシンガーという共通点だけで選ばれた出演者の組み合わせは、ある意味で多彩な音楽性を楽しめたといえるかもしれない。
最初に登場したギター弾き語りの男性シンガーURiTAはもう一人のギタリストを従えて登場。グラマラスな出で立ちに似合わぬ素朴なフォーク調の歌と、ロックな衝動を感じさせるギターの取り合わせが、いかにも中央線ロッカーの味わいだった。この人メジャーと契約してたのか。内気なMCや部分サンタコスが人柄を偲ばせる。
普段はピアノ弾き語りで歌うことが多いという女性シンガーの<こよ>は、フルバンドを従えてのカラフルに弾けるポップスを聴かせて、今回の出演者の中ではメジャー感が強かった。本格的な機材を持ち込んでビデオが撮影されていたが、プロモーションにも意欲的なのだろうか。
プロのギタリストとして長いキャリアを持つ狩野良昭は、もう一人のやはりプロのギタリストとともに、さすがのギターテクニックを披露。ヴォーカルもギタリストの歌にありがちな弱さを感じさせない太さを備えていたが、率直な内情吐露を並べた歌詞に引っ掛かりがない。作詞家と組めばいいのにと思うが、40代半ばになって歌を志したというだけに、自分で歌詞を書くことは不可欠なのだろう。


そして最後にドレス姿の秋山さんがピアノの前に座る。ずいぶん前に秋山さんのライヴを見たことがあるけれど、その時はイベント企画の一部でもあり、また(私もファンのはしくれである)某ベテラン組によるバッキングとの相性も今一つで、真価に触れたとはいえなかった。なのでこの日の演奏が楽しみだったのだが、彼女が歌い始めた瞬間に会場の空気が張りつめたものに変わるのが判った。
静かに重ねられるピアノのミニマルなフレーズと、神谷さんのチェロの持続する響きが、あやとりのように交感の糸を張りめぐらせたその空間に、抑制された情感が柔らかな声に載せてそっと差し出される。ピアノとチェロと歌の作る、とても美しく強固な三角形には、他の何者も介在し得ない完成度があった。
一方、神谷さんがチェロを離れキーボードを弾いたアップテンポの曲は、初期の大貫妙子を思わせる爽やかなポップソングで、また違う側面を見せていた。とはいえ大貫妙子吉田美奈子矢野顕子のピアノ弾き語りに対峙できるバンドがキャラメルママのみだったように、秋山さんの音楽をポップスとしてプロデュースするには相応の覚悟と才能が必要だろう。
ところで秋山さんの歌の多くは、日常的な心象が一人称「僕」で歌われていた。異性の人称代名詞を用いることで生じる、自己の日常的な心象とのささやかな距離感や虚構性。それはこの日出演した他の歌手たちにはなかったものだ。そのことも秋山さんの歌を魅力的にしていると思う。単に私が女性が歌う「僕ソング」が好きなだけかもしれないが(松本隆太田裕美とかね)。


ライヴ終了後、会場で会った知人や秋山さん、神谷さんと話す。神谷さんのライヴは未見なので次の機会にはぜひ伺いたい。山下スキル氏、N氏とデニーズでうだうだした後、クリスマしい街の電飾を横目に帰宅。はいはいクリクリスマスマ。