ベリーダンスの夜

POSEIDON FESTIVAL 2005
2005年10月26日 四谷OUTBREAK
出演:キキオン+リズマ・クノムバスGypsy PotFLAT122

日本のプログレレーベル「ポセイドン」主催のプログレ祭に、けいさん(id:vacatonos)に誘われ足を運ぶ。普段はオールスタンディングであろうフロアに並べられたパイプ椅子と観客の年齢層の高さが、否応無しにプログレ感を盛り上げる。四谷だろうが吉祥寺だろうが不変のスタイルだ。


最初に登場したGypsy Potは、文字通りジプシー風、あるいはアラビア風の音楽を奏でるアコースティック編成のバンド。ブズーキやウードなどの民族楽器とヴァイオリンの絡みを主体に、カホンとコンガ、エレキベースのリズム体が加わって展開される音楽は、エキゾチックではあるが妖しさはなく、教育テレビ調のMCの印象もあってか妙に爽やかだ。その演奏の折り目正しさからは、最良のアマチュアリズムという印象を受ける。だが、ただ爽やかなだけではないぞとばかり登場したのが、ゲストのベリーダンサーだ。これがヤバい。生真面目に民族音楽を追求しているバンドを背に、豊満な肉体をうねらせるダンサーの姿はあまりにも強烈。その視線はどう見ても邪眼(及び邪腹)です。本当にありがとうございました。


次に登場したFLAT122はけいさん一推しのバンドで、アルバムのライナーも執筆されているほどだ。実際、これは期待に違わず優れたバンドだった。ギター・ドラム・キーボードのトリオに、ゲストのギタリストを加えた演奏からは、様々なプログレバンドの記憶が呼び起こされる。ミニマルなフレーズを絡み合わせる2本のギター、ソリストとしての主張よりバンドの響きを膨らませるピアノ、変拍子を刻みながらロックの血をも滾らせるドラム。そのアンサンブルはいわゆるチェンバーロックのようでもあり、キング・クリムゾンやジェントル・ジャイアントなどにも通じる。反復フレーズを継ぎ合わせた目まぐるしい曲展開と、そこから不意に姿を表す美しいメロディからは、スウェーデンのサムラ・ママス・マンナをまず思い浮かべた。だが、メンバーたちは特にマニアックにプログレを聴き込んできたわけではないらしい。素直な志向の行きついたところが、たまたまプログレと呼ばれるスタイルに近付いていたということか。FLAT122の音に感じられるテクニカルなだけではない風通しの良さは、ベースレスという編成から生まれる空間の広がりや自由度にもあるが、彼らの持つこだわりのなさや、ユーモア感覚を示しているようにも思う。何より現在進行形のプログレッシヴ・ロックだ。こうしたバンドをリアルタイムで追えるというのは楽しいことに違いない。この日の物販で購入したアルバム『THE WAVES』では、フューチャー・ジャズ風なエフェクトが加えられるとともにキーボードの存在感が増し、ECMジャズ・ロックのような寒色の響きを湛えていた。


トリを飾るのはキキオン+リズマ・クノムバス。全く同じ編成でのライヴを以前に見たことがあるが、今回のパフォーマンスも基本は変わらない。ただし、大きな違いはまたしても登場したベリーダンサーだ(笑)。まさか一つのライヴで2度もベリーダンスを拝むことになろうとは。今度のダンサーは最初の人よりもスレンダーで露出度が高くどう見ても(中略)本当にありがとうございました。それはさておき、こうした音楽をはみ出して広がる冒険心は(ライトショウとかオルガンにナイフとか着ぐるみとか)プログレの重要なポイントではなかったか。斜め上のサービス精神というか。ベリーダンスに刺激されたのか、バンドの華である十時由紀子の歌もより力強さを増していたように思う。Gypsy Potもそうだが、音楽のみでは終わらない「音楽の生まれた現場」に遡るような楽しい試みだった。この日発売されるはずだったキキオンのライヴDVDは製作上の不手際で間に合わず、事情を説明する十時と小熊英二の噛み合わないMCがほのぼのと笑いを呼んでいたことも、小熊先生の読者のために伝えておこう。


プログレというのは70年代に封じ込められた音楽のようで、実はしぶとい生命力と多様性を持っている。その血は新陳代謝を繰り返しながら、現在の音楽として息づいている。紙ジャケの復刻CD買ってる場合じゃないと、ライヴハウスから21世紀の精神異常者たちは叫んでいるようだ(何だこの締め)。