ほとらとぴからと優しい奴「らっ」

ほとらぴからっ
2005年6月6日 吉祥寺MANDA-LA2
出演 ほとらぴからっ佳村萠 (vo)、張紅陽 (kb,p,accordion)、斎藤ネコ (vl)、四家卯大 (cello)、浦山秀彦 (g)、横澤龍太郎 (per)、Whacho (per)
guest:近藤達郎 (harmonica,p)
ともに蛍を指すという北方語の「ほとら」と南方語の「ぴから」、そして複数辞の「ら」を強調する促音を加えたものが「ほとらぴからっ」の名の由来だという(張紅陽:談)。
どちらが「ほとら」でどちらが「ぴから」なのか知らないが、美貌の歌姫・佳村萠と鍵盤の女王(?)・張紅陽に、その時々の音楽仲間「ら」を加えた音楽集団が「ほとらぴからっ」だ。今回不在のベースはチェロも一曲だけ受け持っていたが、張紅陽の左手が充分にカバーし低音部の薄さを感じさせない。この一点でも彼女らのミュージシャンシップの高さが窺える。
強力なサポーターであるけいさん(id:vacatonos)に誘われ、今回はじめて触れたその音楽は、新しい童謡のようでもあり、出自不明の民族音楽のようでもある。強力な打楽器とストリングスを擁した変拍子の多い展開は、プログレに通じなくもない。だが何よりも、佳村萠が少女の声で歌う、幼少時の湿っていて暖かい心の暗がりに通じる奇怪な郷愁へと誘うメロディは、強い吸引力を持った「ポップス」あるいは「歌謡曲」であることを主張していたように思う。別にジャンルを決める必要などないが、この音楽を人に勧める際にインデックスをつけるのはちょっと困難だ。それでも例えばあがた森魚原マスミ鈴木さえ子、あるいは『空色帽子の日』をものしたZELDAなどが「ニューウェーヴ」期の自由さの中で描いた、ポップなファンタジー世界に親しんだ人には(まあ私だが)ほとらぴからっの音楽世界は決して敷居の高いものではない。間口は狭くとも、入ってみればそこには思いがけない奥行きと親密さがある。80年代に同時多発的に出現したオルタナティヴなポップ音楽を、ほとらぴからっは当時から継続発展させているといえるかもしれない。
終盤の3曲では、近藤達郎がハモニカとピアノで参加、気心知れた音楽蛍たちの共演にさらなる光を加えていた。秋にはアルバムが復刻されるというし、それまでに機会があれば再びライヴにも足を運んでみたい。