モーガン・フィッシャー&サム・ベネット

"SPLENDID, BLENDED, BEFRIENDED"
2004年11月24日 新宿アート・プレイス
出演 モーガン・フィッシャーkb サム・ベネットper,vo,etc.


元「モット・ザ・フープル」というよりも、ロバート・フリップロバート・ワイアット、ギャビン・ブライヤーズ、アンディ・パートリッジらの俊英たちによる1分間の曲を集めたアンソロジー"miniatures" ('80)の編者として、私はモーガン・フィッシャーを記憶していた。彼が今回共演するサム・ベネットは、いわゆるニッティング・ファクトリー系の即興を得意とするドラマーだが、ポップ・センスに優れたシンガー・ソングライターでもある。
その両者の共演ということで、新宿に出来たばかりのライヴカフェに足を運んだのだが、関係者を除けば客の数が10人に満たない有様。私も数日前に届いたメールによって辛うじて知ったくらいで、あまりにも情報が無さ過ぎた。宣伝スタッフが足りないのかもしれないが、それにしてもだ。
さて、そんな状況で最初にステージに上がったのはサム・ベネット。まず驚くのが、主に演奏していたコルグのデジタル・パーカッション「ウェーブ・ドラム」という楽器の威力だ。コンガ、ボンゴ、タブラ、スネア、タンバリンなどの音色をその都度選択しながら、多彩なリズムパターンを叩き分け、プレイヤーとしての優れた技倆を見せつける。さらに、ピックアップにバイブレータを近付けてノイズを発生させ、リアルタイムでサンプリングしループを重ねていく。そして彼のややエキセントリックな歌声には、アメリカの都市の影としてのブルースが匂う。そこにモーガンが加わり、シンセサイザー、オルガン、ピアノなどの鍵盤群を重ね、アンビエントニューエイジ寄りのテクスチュアを作って行くのだが、実のところあまり寝ておらず、しかも酒など飲んでしまったものだから、私はちょっと舟を漕いでしまったのだった。気持ち良くて寝てしまうというのも褒め言葉の一種だとは思うが、さすがにこの狭い会場、少人数、しかもミュージシャンの目の前で寝るわけにはいかない。かくして前半は充分に音楽を味わったとは言えなかった。
そこで休憩時間にコーヒーを飲んで後半のステージに備えたのだが、これが洒落ではなく目の覚めるような素晴らしい演奏だったのだ。今度はモーガンが先に客の前に現れる。正面のスクリーンには、古き良き時代の英国の鉄道を描いたフィルムが映されている。モーガン曰く「私のノスタルジア」。そのノスタルジアに触発され、即興で音のイメージが描かれていく。鍵盤ハーモニカやカシオトーン、それに鍵盤ハーモニカのシンセ版という感じの楽器*1を、やはりリアルタイムのサンプリングでループさせ、重ね、ずらし、ポリフォニーポリリズムが即興で構築される。その下地の上にモーガンの生ピアノが、ミニマルなリフレイン、叙情的なメロディ、陽気なジャズなど、絵筆を自在に走らせる。再びサムが加わり、強力なリズムや奇矯な叫び、効果的な鳴り物を投げ込んで、在りし日の英国の緑の中を疾走する流線形の機関車や、線路が構成する幾何学模様、駅で離合集散する人の流れなどを写した映像と一体化し、たった2人によるオーケストラが劇的に立ち上げられて行くのだ。
それにしても、繰り返しになるがこのお寒い集客。このライヴは明日25日にも行われるので、興味のある方はぜひ足を運ばれることをお勧めする。詳しくはアート・プレイスのサイト参照。http://art-place.jp

*1:リードから伸びたホースがシンセサイザーに繋がっていて、息を吹き込みキーボードで音色・音階を操っていた。詳細不明。